Find Your Compass(第19回)
保険代理店は「金融事業者」である
保険代理店は金融事業者
2023年に金融サービス提供法の改正が行われ、金融事業者に対し「顧客等の最善の利益を勘案しつつ誠実・公正に業務を遂行しなければならない」という「顧客最善利益義務」が課されました。(2024年11月1日施行)金融庁が求める「顧客本位の業務運営」に法的な位置づけを与え、金融事業者全般に適用される広範な義務となりました。
この義務の適用対象に「保険代理店」(以下、代理店)が明記され、代理店も金融事業者の一員であることを再認識する契機になりました。本年6月に横浜で開催された「Ringの会」のセッションでも、あるパネラーの方が「代理店は金融事業者であることをしっかり認識すべき」との指摘をされていました。
そこで今回は、改めて金融事業者とは何か、その立ち位置からどのような責務が課されるのか、それをどう受け止めたらいいのか、整理したいと思います。
金融事業者の特性
金融事業者とは、「お金に関わる事業を営む者」を指します。銀行や証券会社の他、保険会社・代理店、資産運用会社などが含まれます。金融事業は以下の点で私たちの生活や社会経済に非常に大きな影響を与えるため、他と比べて重い責任や義務を負うことになります。
(1)顧客との関係
金融は、お金という個人の資産を扱うため、顧客との関係においては「信頼」が重要な基盤となります。銀行に預金する、証券会社で投資信託を購入するといった行為は、いずれも顧客が事業者を信頼して初めて成り立ちます。特に保険の場合は、“1万円払ったら万一の場合に1千万円補償します”というような約束ですから、保険会社・代理店双方の信頼なくして成り立ちません。信頼を裏切れば、顧客は大きな損失を被ることになります。
(2)経済システムへの影響
金融システムは「経済の血液」と言われます。金融機関が適切に機能しなければ経済活動が停滞します。また、金融機関が破綻すれば、多くの預金者や投資家、保険契約者に連鎖的な被害をもたらし、社会全体をパニックに陥れる危険性があります。
(3)専門性
金融商品は非常に複雑で、一般の利用者がその内容を完全に理解することはできません。保険の場合も、リスクに有効に機能させるためには専門的な知識が必要です。金融事業者から適切な情報提供や顧客視点の提案が行われないと、顧客は予期せぬ損失に見舞われることになります。
金融事業者の義務・責務
このように金融事業者は、その運営のあり方によっては顧客の資産や将来に大きな影響を及ぼすため、一般の商取引よりも厳しい義務や責務が課せられることになります。
(1)顧客保護・顧客最善利益義務
金融事業者は、顧客の利益を最優先で考えることが大前提です。これは当初「フィデューシャリー・デューティー(受託者責任)」と呼ばれていましたが、現在は「顧客本位の業務運営の原則」の形で、金融庁から全ての金融事業者に対し採択が要請されています。
冒頭にも記載しましたが、この原則の2の「顧客の最善の利益の追求」が法定化されました。金融事業者は、顧客の属性やリスク許容度、商品購入に際しての意向や目的などを十分に把握した上で、顧客の最善の利益を勘案して適切な商品を提案することが求められます。顧客の知識不足につけ込んで強引にリスクの高い商品を販売したり、顧客の意向や利益を無視した自分本位の営業を行うことは禁じられています。
(2)情報提供義務
金融事業者は、金融商品の内容、リスク、手数料(フィー)など、顧客が預金や投資や保険購入の判断をするために必要な情報を、正確かつ分かりやすく提供する義務があります。これは顧客が自らの判断で納得して取引を行えるようにするためです。また、一方通行の情報提供で終わらせずに、顧客がその内容を正しく理解したか確認することも重要です。
(3)内部管理体制の構築
金融事業者は、不正行為や不祥事を防ぎ、適切な業務運営を確保し継続するために、組織内のルールや仕組みを整備して厳格な内部管理体制を構築する必要があります。併せて、組織運営の透明性を高めることが重要になります。
違反した場合は、行政処分の対象にもなります。金融事業者は、単に利益を追求するだけでなく、社会的な信頼を築き、維持する責任も負っているのです。
これらの義務や責務は社会全体の信頼を維持するために重要な役割を果たしていることは言うまでもありません。この点は代理店としての「矜持」にもつながるものです。
ただし、義務だから、言われたからやる、のでは真の効果は生まれません。これらのルールに主体的に向き合い、自らのものとして浸透・定着させる「自律」の精神が不可欠です。
ルールのゴールは顧客本位の実現です。そのカギは現場の人たちの働く環境にかかっています。金融事業者としての義務や責務も、業界で働く全ての関係者が安心して堂々と人のために仕事ができる環境構築のための大事な取り組みだと位置づけることが重要ではないかと感じています。
Hands-Onコンサルティング
野元 敏昭