Find Your Compass(第20回)
保険ダモア

保険ダモアって何?と思われるでしょう。私も先日受講したセミナー(※)で初めて知りました。世界で進展する損保販売の動向から我が国の今後の展望を示唆するもので、大変参考になりました。
(※)損保総研特別講座「世界各国で進む損保業界のモダナイゼーション」A.Tカーニー福島 渉氏)今回はセミナーの中から「保険ダモア」をKEYにお隣の韓国の動向をご紹介します。
因みに、韓国は国策で先進的なデジタル化を進めており、金融サービスのCX・UXは世界トップとされています。

チャネル多様化の流れ
先ず韓国の保険販売チャネルの歴史を振り返ってみましょう。韓国では1960年代に保険業法が整備され、損害保険市場が拡大しました。1980年代以降の自動車保険普及期には「設計士」と呼ばれる専属の保険募集人と専属代理店が販売の主体で、対面募集を基本としていました。(保険会社在職時に韓国市場の視察に行った際、保険会社のオフィスに多数の設計士(多くが女性でした)の席があり、電話で顧客とコンタクトを取っていた光景を覚えています)
その後、1990年代に入ってテレマが登場。金融危機以降のコスト削減圧力もあって急速に普及し、2003年には銀行の保険販売も始まり、チャネルの多様化が進みます。

オンラインと比較サイトの進展
2000年代後半にかけて、テレマやネット販売が導入されます。特に最大手のサムソン火災が自動車保険のオンライン/電話募集を開始(サムソンブランドのまま代理店経由より15%-20%低廉な価格を提示)したことが業界に大きな衝撃と刺激を与え、さらに2015年には後述する保険ダモアの創設でオンライン直販が一気に拡大します。
同時期に、保険業法改正により乗合代理店の法的根拠が明確化されたことを受けて、GA(General Agency)という大型代理店(日本の全国展開型代理店の従業員数をはるかに超えるような代理店も誕生)が台頭し、専属チャネルの力は相対的に弱まっていきます。
現在では、モバイルやアプリ経由の契約が一般化し、保険金請求もオンライン完結型が広がっています。また、MyDataという金融プラットフォームが国ベースで整備されたことで、デジタルオンラインは保険販売の主要チャネルとして確立しています。わずか20年の間に自動車保険だけを見れば全体の3割以上がオンライン直販にシフトしており、さらに急速に拡大している状況です。
一方、代理店の方はどうかといえば、急速なオンラインシフトの中で、専属から乗合主体に変化しつつ大型化が進み、引き続き主要チャネルの一角としての地位を維持しています。

保険ダモアって何?
ここで保険ダモアについて紹介しましょう。これは韓国政府が主導し、金融監督院(日本のFSA)や生保・損保協会も運営主体となって2015年に開設されたオンラインスーパーマーケットです。(ダモアは韓国語で”すべて“とか”みんな“とか”人が集まる場所“といった意味があります)保険商品の価格や補償内容を公正・中立的に比較できる場を提供し、消費者の合理的な保険商品選択を支援すること、また、過度な販売手数料や不透明な取引慣行を是正し、保険料引き下げにつなげることを目的としています。
対象は自動車保険・医療保険・年金保険から始まり、現在は多くの生損保商品をカバーしています。消費者は複数社の商品を透明性のある形で一括比較でき、加入もオンライン完結する公的サービスであり、韓国政府としては、保険ダモアの開設によって保険会社間の本業における競争を促すとともに、人件費削減効果で保険料が低減するオンライン販売を強力に後押ししている状況です。
国がそこまで保険販売に介入するのかと思いますが、軸は顧客起点であり、2015年以降、韓国では自動車保険を中心にオンラインシフトが進み、消費者にとっても「比較して選ぶ」行動が一般化し、従来の専属募集人・代理店主導の販売から大きく転換しています。

既存の代理店はどうなったのか
国が主導して保険商品の比較サイトをつくり、オンライン直販を推進するなどということは、代理店が保険募集の主体(それも90%以上)であるわが国では考えられません。
保険ダモア自体も代理店や募集人の役割を排除することを意図したわけではありませんが、保険商品のオンライン直販を促進することで、対面販売を主な業務とする保険代理店や募集人の収益が減少するのではないかとの懸念は当然あったようです。この懸念をどう整理したのかは十分調査できていませんが、国が主導し、デジタルによる快適な商品比較の環境を整えてオンライン直販を推進しても、依然として5割以上の契約は代理店という対人チャネル経由で加入されているという事実は非常に示唆に富みます。

代理店の価値
保険という商品の特性から、対人チャネルの価値が発揮できる領域が必ずあるということは、保険先進国と言われるドイツやアメリカでも同様であり、代理店としてはこの「人がもたらす価値」を突き詰めることが重要だと改めて感じます。
保険ダモアに関していえば、役割の分化を意図しているのではないでしょうか。すなわち、保険ダモアは、デジタルを活かした主に商品の情報提供と比較、また、単純な商品や自動車保険のように半ばコモディティ化した商品のダイレクト販売の場として機能させるということでしょう。
一方、既存の保険代理店・募集人は、リスクマネジメントや複雑な保険商品の設計、顧客のライフプランに合わせた個別コンサルティング、契約後のアフターフォロー(保険金請求サポートなどを含む)といった、高度な専門知識・スキルと対人コミュニケーション力を活かした人的サービスが必要な分野で重要な役割を果たすことが期待されているのではないかと思います。
これはいわば共存政策で、政府は、保険ダモアを消費者の情報探しの出発点と位置づけ、既存の代理店チャネルと競争しつつ共存する形を目指したものと理解できます。つまり、保険ダモアは消費者が自分で選びたいときに利用し、専門的なアドバイスを求める消費者は専門家の代理店からサービスを受けるという役割分担です。
不可逆的なオンラインシフトの流れが日本より数段先行する韓国の状況が示唆することは、保険という商品の特性上、どんなにオンライン環境が快適であったとしても、対人チャネルである代理店が提供する価値は必ず残るということ、ただし、その価値が何かはそれぞれの代理店の強みとつなげて明確化し、強化する必要があること、また、その価値を発揮するためには、態勢の整備と変革(例えば組織の規模拡大など)が必要、ということは言えそうです。

Hands-Onコンサルティング 
野元 敏昭