Find Your Compass(第21回)
専属専業代理店の王国ドイツの現状と展望

 保険大国ドイツですが、戦後Allianz等の大手保険会社が全国各地に専属専業代理店を整備し、地域に根ざした顧客との関係強化に注力したことで「専属専業代理店の王国」を構築しました。当時は情報流通が限られていたという歴史的な事情もありますが、住民は保険のことは「地元の専門家」に相談するという構造が自然に形成されていきました。
 そんなドイツの専属専業代理店が、デジタルの急速な進化や比較文化の拡大の中で、どのように変わり、また、変わっていないのか、そこから得られる示唆は何なのか、自動車保険における変化を見ながら探ってみましょう。 (参考:ATカーニー・福島渉氏セミナー)

2000年以降の変化と現状
 1970年~80年代には自動車保険の70%以上という圧倒的なシェアを誇っていたドイツの専属専業代理店ですが、2000年以降はデジタルの進展と比較文化の浸透に伴い、ダイレクトチャネルにシェアを奪われていきます。2005年には3%だったダイレクトのシェアは2024年には21%まで拡大していますが、これに伴い、専属専業代理店は62%から46%までシェアを下げています。
 但し、相対的には縮小したとはいえ、専属専業代理店は現在でも自動車保険の販路の中ではトップシェアを有して存在感を示し続けており、市場はブローカー(自由代理店とも呼ばれるので乗合専業代理店のイメージかと思います・2024年でシェア24%)も含めた3つ巴の状況となって膠着している(住み分けられている)のが現状です。

ダイレクト(オンライン)販売拡大の理由
 保守的で秩序を好み、近年までディスカウントも認めていなかったドイツですが、ブロードバンドと高速インターネットの普及が大きな要因になってダイレクト販売が拡大していきます。ダイレクト専業の保険会社が誕生し(HUK24等)、代理店経由より10%~20%安価な保険料を提示して消費者の価格選好を刺激したこと、また、簡単に数クリックで保険料の比較ができる専用サイトが登場したこと(Check24等)で、消費者の「(保険会社の)乗り換え文化」を醸成したことが挙げられます。
 自動車保険は標準化されたコモディティ(日用品)的商品で比較が容易なため、オンラインで見積り、契約する消費者が急激に増え、さらには、デジタルの進化を活用して「完全オンライン契約」や「月単位で加入できる自動車保険」などを売りにするFridayやWefox等のインシュアテックが登場し、デジタルネイティブ世代を中心に、消費者のデジタル志向を刺激したことが挙げられます。

専属代理店が根強く残る背景
 一方で、専属専業代理店も根強く残っています。その理由は何でしょうか。その理由のとして、ドイツは欧州では最も高齢化が進んでいる国の一つであり、自動車保険契約者に占める高齢者の割合が多いことが挙げられます。(最多層は50歳~69歳)高齢者は地元の代理店に長年任せてきた安心感がベースにあり、また、オンライン比較や自己責任による判断よりも「信頼できる専門家との対話」を重視するため、地域に根付いた代理店にとって優位な状況になっています。デジタルの進展とともに若年層のオンライン契約も増えていますが、こうした環境に相殺されて市場の変化が鈍化している状態になっています。
 また、ドイツは都市国家であり、大都市だけではなく、地方の中小都市や農村部にも人口が分散していることも背景にあります。地方では保険加入も「顔の見える関係」を好むし、価格差よりも「安心感」や「信頼感」を重視する傾向が強いため、地元に昔からいる顔見知りの代理店が選ばれる環境になっています。
 もう一つ、これはドイツならではの面もありますが、保険を含む金融サービスは「専門家に任せるもの」とする文化が根強く残っており、ダイレクト契約やインシュアテックの強みである「利便性」のメリットが、この文化的価値観に合いにくいことも挙げられます。
 結果として、時代の進展とともに新たなチャネルや契約形態が登場し、若年層を中心に一定の支持は得ても、信頼をベースにした伝統的な代理店モデル(それも専属専業代理店)の厚い基盤が依然として消費者に支持されている現状があります。

我が国の代理店への示唆
 消費者の意識や行動は多様なので、一概に“こうだ”と言うことはできませんが、先ずは「人」が対応するチャネルの価値を認めてくれる消費者に囲まれることが重要であることを示しています。自社の理念や価値観、企業文化に共感し、「誠実な顧客対応と責任あるアドバイス」を評価してくれるお客さまとともに生きていくということになります。
 次に、商品の比較や安さで勝負することに経営資源を割くよりも、「何でも相談できる安心感やそれに対応できる態勢」、「お客さまの立場に立った親身な対応ができる人間力と専門性」、「商品売りを排し、お客さまを取り巻くリスクに対応するリスクベースの対応力」、「お客さまが困った時に支えられるアドバイス力やソリューション提供のネットワーク」などを強化する方が代理店が有する「人の価値」を活かすことにつながることを物語っています。
 短期的な販売にまい進するよりも、お客さまとの継続的な信頼関係の醸成に取り組みながら、長期的に信頼資産を積み上げていくことが何よりも重要であり、「顧客起点の経営」の徹底こそが唯一の道であることを感じます。

Hands-Onコンサルティング
野元敏昭