Find Your Compass(第22回)
米国自動車保険市場は三つ巴

“世界で進む損保販売の現代化報告”第3弾は米国です。
米国自動車保険市場の販売網推移
1897年にトラベラーズが米国初の自動車保険を販売し、既に火災保険販売で確立されていた「独立代理店(我が国に多い準専属的な乗合代理店ではなく、ブローカー的な乗合代理店)」が主体となって市場が拡大していきました。その後、1922年創業のステートファームは農村地区を中心に専属代理店網を展開、1931年創業のオールステートは通信販売で発足した後に専属代理店網を拡張、1936年創業のGEICOは連邦政府職員等を対象にしたダイレクト・マーケティングで自動車保険を販売し、独立代理店、専属代理店、ダイレクトが鼎立する現在の原型が出来上がります。
1960年代の自動車保険の爆発的普及期に保険会社が自社ブランドの専属販売網整備に集中投資した結果、そのシェアが独立代理店を上回り、両者が「共存」する構造が定着しました。
1990年代には、テクノロジーの進化とともに直販が加速。プログレッシブは24時間見積り対応や比較サイト開設により保険販売のオンライン化を先導していきます。
2000年代に入ると、生活様式のオンライン化の進展、“比較購入が当たり前”のミレニアル世代の登場、プライシング技術の向上、スマホの爆発的普及等により、オンライン直販の存在感が拡大していきます。
こうして現在は、ダイレクトは広告と価格訴求、専属はブランドと地域密着、独立は比較推奨と助言等、それぞれの強みを活かした形で三つ巴の棲み分け構図が定着しています。(2023年の自動車保険統計では、専属35%、独立39%、直販25%のシェアで均衡)

米国自動車保険主要4社の動向
市場のメインプレイヤーである大手4社の近年のチャネル戦略は以下の通りです。
<プログレッシブ> 早期からダイレクトと独立代理店のマルチチャネルを確立し、顧客層の広がりを実現したこと、両チャネルの連携(相互送客の仕組みを整備)を図り、チャネル間を遷移する顧客の離脱を抑えて自社内に囲い込めたこと、テレマティクスやパーソナライズ・マーケティングで損害率をコントロールできたこと等、顧客ニーズに沿った複数チャネル+データ活用の戦略が成長と利益拡大に直結し、業界トップの成長と利益を確保しています。(2024 CAGR=年平均成長率 16%!・C/R 92.2% !)
<ステートファーム> 同社は米国最大規模の専属代理店網を構築し、業界トップの地位を確立してきました。コロナ後の需要回復も最大限享受して大きく成長しましたが、コスト構造は代理店手数料や運営経費に依存しているため、損害率上昇(修理費・医療費インフレ)時に利益を圧迫する構造にあります。レートアップをするにしても専属代理店網への影響を考慮する必要があり、ダイレクトモデルほど機動的な価格戦略が取れず、どうしても対応が後手に回り、結果として利益水準を悪化させている状況です。そのため、現在は専属代理店網をデジタルで補完(見積りや契約管理をデジタルに移行)するコンバインド型で顧客接点を拡張しようとしています。(CAGR 13.8%・C/R 109.5%)
<GEICO> 徹底した「ダイレクト専業」戦略を展開するGEICOは、構造的に低コスト(代理店手数料不要)でプライシングも容易なため、損害率が上昇する局面でも一定の利益は維持できる強みがあります。一方、広告依存度が高いためマーケティング費用の影響を受けること、プログレッシブよりテレマティクス導入が遅れて若年層や価格選好の顧客の取り込みに劣後していること、損害率悪化で広告費を抑制すると結果的にトップラインにブレーキがかかること等の課題を抱えています。また、ダイレクト故に一定の利益は維持できても、チャネルが単線のため、市場の成長局面では代理店モデルに劣る結果になっています。(CAGR 5.4%・C/R 92.8%)
<オールステート> ステートファーム同様に専属代理店を中心として成長してきた同社ですが、1990年代に入るとオンライン直販チャネルを買収してダイレクトを強化し、専属網と並行展開します。現在は専属代理店を維持しつつ、ダイレクト販売を組み込んだ複線チャネル戦略を採っていますが、双方の連動ができておらず、ハイブリッドのメリットを活かせていません。中途半端な戦略が結果的に業績にも影響し、4社の中では最も中途半端な結果となっています。(CAGR 12.6%・C/R 98%)

米国市場の動向からの示唆
ここ最近はコロナ禍の影響で自動車保険市場は大きな変動に見舞われました。こうしたマーケット環境においては、チャネル戦略の違いが業績に顕著に現れる結果となっています。保険会社の視点で見れば、消費者が多層化する市場において成長の機会を掴むためにはマルチチャネルが有効であることを示しています。また、マルチチャネル間で連携が取れたいわゆるオムニチャネル化が進むと成長機会を面で捉えることができることも示しています。マルチの場合は「チャネル間の連携」がキーポイントとして浮かび上がります。
また、デジタルが進展する中で中間介在者としての代理店が必要なのか、との意見は常にありますが、ドイツや米国の状況を代理店の視点で見ると、代理店(専属・独立)、ブローカー(個人種目以外)、ダイレクトで棲み分けの構造ができており、消費者がそれぞれのニーズに合わせてチャネル選択を行っていることが伺えます。
従って、代理店かダイレクトか、という二項対立の構図ではなく、代理店による親身な対応を望む顧客層への対応力の勝負という競争環境であることを認識する必要がありそうです。
以上

アイエスネットワーク シニアフェロー
Hands-Onコンサルティング
野元 敏昭