Find Your Compass(第23回)
「状態の言語化」が組織の信頼につながる

 いよいよ26年度から業界共通の「代理店業務品質評価」が本格実施されることになります。「自己点検チェックシート」に基づく自己評価を基に保険会社との深度ある対話(※)を繰り返しながらPDCAサイクルを確立させて、業務品質の持続的向上を目指す極めて重要な取り組みとなります。
(※)「深度ある対話」・・・よく使用される用語ですが、以下の状態を目指すものです。
①表面的な情報から真の考えや感情に掘り下げていくこと(洞察力の要求)
②互いの意見を傾聴し、新しいアイデアや共通の解決策をみつけること(新たな合意形成)
③失敗談や悩みなどを安心して自己開示できる関係性を築くこと(相互信頼の確保)

 評価規準が「定量的」な場合は判断も容易ですが、本質的に大事なことはその結果を生み出す目に見えない様々な営みの中にあり、この「定性的」な状態の評価はなかなか難しいのが現実です。私自身も個人や組織の評価を行う際にいつも頭を悩ませてきました。
 そこで今回は「定性評価の妥当性と目線の揃え方」について考えてみます。

【主観という名のノイズ】
 定性評価において最も避けるべきは、評価者の主観による「印象評」です。 例えば「主体性がある」「誠実である」といった言葉は一見美しいのですが、その定義は個人の価値観に左右されます。ある上司は「ミスがあっても直ぐに報告すること」を誠実さと捉え、ある上司は「(仕事なんだから)手を抜かずに完璧な資料を作成すること」を誠実さと捉える。こうした基準の揺らぎは、評価を受ける側にとっての不確実性となり、組織への帰属意識やモチベーションを削ぐ要因となります。
 個人にしろ組織にしろ評価を行う場合には、基準の「解釈の余地」という認識の揺らぎを最小化することが必要です。

【状態の言語化】
 そこで重要となるのが「状態の言語化」というプロセスです。抽象的な概念を、具体的な行動に基づいた「レベル分け」に落とし込むことで、教育現場や高度な専門職評価で用いられる「ルーブリック評価」という手法です。
 例えば、「顧客本位の姿勢を有しているか」という定性項目を評価する場合、以下のように階層的な言語化を行うことが有効だとされています。
◇レベル1(受容・実行): 顧客の要望に対し社内規定に則り正確・迅速に応答している
◇レベル2(背景の理解): 顧客の要望の背景にある真のニーズを汲み取り、既存の枠組みの中で最適な代替案を提示している。
◇レベル3(価値の創造): 潜在的なリスクや将来的な課題と対応方法を先回りして助言し、顧客との間に長期的な信頼関係を構築している。

 このように「状態」を段階的に言語化することで、評価者は「なんとなく印象で・・・」ではなく、「どの段階の行動が実際に観察されたか」という事実に基づいて判断を下すことが可能になります。「状態の言語化」は定性評価の最も重要なポイントといえます。

【「面」でとらえる】
 「状態の言語化」のアプローチは、組織評価においても重要です。組織全体の健全性やガバナンスの浸透度を測る際、単に「良好である」「できている」とするのではなく、組織内にどのような「光景」が広がっているかを基準に据えます。
 組織という「面」で捉えた時、その行動はどれほどの再現性と浸透率を持っているか。 例えば「コンプライアンス意識」であれば、「ルールを守る」という段階から、「不自然な兆候に気づいた周囲が、自発的に声を掛け合っている」という状態まで言語化し、その光景が組織の何割で見受けられるかを評価の指標とします。
 今回の業務品質評価に当たって保険会社から提供されているガイドブックには具体的な取り組み事例が多数掲載されています。これも「状態の言語化」の一つであり、「組織全体で高い基準の「行動」が選択されているか」 という視点を持つことで、組織評価は単なる現状分析を超えて、組織として目指すべきより高いレベルの業務品質向上に向けた羅針盤となります。

【評価は未来への投資】
 定性的な事象を具体的な行動事実に言語化し、目線を揃える作業は、非常に緻密で気の遠くなるような作業かもしれません。しかし、言葉の定義を疎かにせず、認識の共有を重視する姿勢は、プロフェッショナル集団としての正しい規律を生み出し、組織全体の「心理的安全性」を担保することに繋がります。
 基準が明確であれば、メンバーは迷いなく創意工夫を発揮したり、自己研鑽に励むことができ、上司は確信を持って背中を押すことができます。カッコよく言えば、「状態の言語化」とは、組織のあるべき未来に対する最も誠実な投資の一つと言えるのではないでしょうか。
 是非、皆様の組織においても「理想の状態」とはどのような「光景」なのか、それを言葉にしてみてはいかがでしょうか。 

以上
アイエスネットワーク シニアフェロー
Hands-Onコンサルティング 野元敏昭