企業内代理店に関する監督指針はどうなるか:保険の虫眼鏡(第123回)
改正保険業法が国会を通過したのは5月30日です。これに伴い政省令と監督指針の改正が行われます。監督指針に関しては、改正法の国会通過に先立ち、一部が5月12日に公表され、8月28日にパブリックコメントの結果が示されることで内容が確定しました。
問題は、これに続く監督指針の改正が、いつ、どのような内容で公表されるかです。特に、「比較推奨販売に関するハ方式の廃止」と「企業内代理店に関する規制の再構築」がどうなるかは多くの関係者が強い関心を持っているところです。今回は、この二つのうち後者に関して記したいと思います。
二つの報告書の内容
「有識者会議報告書」と「金融審WG報告書」に記された企業内代理店に関する規制の再構築の内容は、平たく要約すると次のようになります。
・企業内代理店は企業と保険会社の双方の代理という性格を持つが、保険契約者であるグループ企業への遠慮があるため保険会社としての代理店監督が徹底しない。
・保険会社としては、企業内代理店が非自立であっても、契約獲得のために営業社員や出向社員による援助を惜しまない。その結果、企業内代理店はグループ企業の契約だけで存続が可能になり、代理店手数料分が事実上の保険料の割引に該当する。また、企業は保険会社の都合のよい保険契約に誘導されて、リスクマネジメント全体にまで悪影響が生じる。
・問題点を解決するためには特定契約比率規制を見直すことが必要である。この規制に該当しない代理店はグループ外の契約が過半を占めるため、特定企業だけのための代理店という双方代理の特性がやわらぐことになる。また、この規制に該当する企業内代理店は廃止されることになり、非自立代理店の淘汰につながる。
・見直した特定契約比率規制の適用に3年間の激変緩和期間を設ける。また、真に自立しており、企業グループ内でのリスクマネジメントに貢献している企業内代理店は特定契約比率規制の適用除外とする。
・代理店手数料分が事実上の保険料の割引にならないよう役務に応じたものにする。
・欧米の実態を踏まえ、本質的な対応を考えれば、企業内にリスクマネジメント部門を置き、保険に関しては企業の代理人である保険ブローカーを介して手配することが必要である。従って、保険ブローカーの活用を促進するべきである。
特定契約比率規制の「適用除外」
企業内代理店に関する規制の再構築との新たな方針の下で、企業内代理店には大きな動揺が生じています。日経新聞の2025年6月24日付の記事「リセット企業保険」では「4割が委託解除に該当する」という金融庁の見通しを報じています。このような中、企業内代理店の方としては、「いくら何でもそんな激変は金融庁としても避けるだろう」と考え、「特定契約比率規制の遵守は困難だが、適用除外によって救済される」ことに期待するものが相当数、存在します。
しかし、こうした見通しには筆者として疑問符が付くと考えています。なぜなら、激変緩和や弱者救済といった観点からの対応として、「3年の猶予期間」が設けられているからです。そうなると、「適用除外」は「特定契約比率規制には該当するが存続することに何も問題がない企業内代理店」のために設けられることになります。
筆者の知るある企業内代理店は、自らの存在価値を企業グループ内のリスクマネジメントの担い手と位置付けています。そのため、契約者をグループ内企業に限定し、リスクマネジメントによって防災が向上し、リスクの保有が可能になることで不要な保険が生じた場合は、手数料収入が減少するとしてもそれを実現した社員を評価することにしています。もちろん、必要な保険に関するノウハウは十分に蓄積されており、しっかり自立した代理店です。こうした代理店に特定契約比率規制を適用すること自体がそもそも合理的なものではありません。そこで必要になるのが特定契約比率規制の「適用除外」ということになります。従って、現在、金融庁が検討中の新たな監督指針において、「適用除外」の対象は相当厳しく絞り込まれることになると予想しています。
どう対応するか
現時点で、企業内代理店の動向をいくつかに分類すると、圧倒的に多いのは、「適用除外」規定がどのように定められるかを見てから判断するというものです。これは当然のことと感じます。組織があり、人がいて、収益状況は問題ないとなれば、誰でもそのような会社が規制によって排除されるはずがないと考えるのは至極当然のことです。また、8月28日付で改正された監督指針の一部に関しては経団連が6月13日付で意見を公表しており、企業内代理店に関する監督指針の案が公表されれば、これにも経団連としての意見が付されるものと思います。
一方で、一部の企業内代理店において、3年後であっても特定契約比率規制に該当するため、銀行系や商社系の代理店への営業譲渡等により事業の継続を断念するという動きが生じています(日経2025年6月24日付「リセット企業保険」)。また、前回、このメルマガに記しましたが、三菱電機保険サービスは、親会社である三菱電機がマーシュジャパンに株式を売却し、企業内代理店という立場を解消することになりました。多分、同社は、仮に特定契約比率規制に該当するとしても「適用除外」に該当する可能性が相当高かったと予想されますが、こうした結果になりました。
今、どう動くかは非常に難しい判断です。ただし、「適用除外」は決して広い範囲に及ぶものではないとの前提で今後の対応を検討することが重要と考えています。
日本損害保険代理業協会 アドバイザー
アイエスネットワーク シニアフェロー
栗山 泰史

