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保険の虫眼鏡(第21回)

 

「自動運転」の自動車保険への影響(その2)

 

 前回、自動運転について考える場合、「技術」「時間」「消費者ニーズ」の3つの要素を勘案しなければならないと述べた。今回は、自動車保険への影響について考えてみたい。

 

3つの時間軸と放物線の形

 

この場合、3つの時間軸があることに留意することが必要である。すなわち、「技術」、「普及率」、そして「保険」である。まず、「技術」に関しては時間軸の目盛は非常に小刻みである。しかも指数関数的な展開を遂げるだろう。つまり、すごく速い速度で技術は進歩し、その伸びは放物線を描きながら急激に進展するということである。

次に、「普及率」に関しては、「技術」に比べて時間軸の目盛は大きい。そして同じく指数関数的に伸びるだろう。しかし、「技術」に比べれば、「普及率」が描く放物線は横に寝るような形になるだろう。放物線ではあるが、ゆっくりとした動きになるだろう。その理由は、前回記した通りである。

そして、「保険」に関してはどうであろうか。時間軸の目盛は「普及率」よりもさらに大きいと考えられる。また、座標軸上の曲線の姿には大きな違いがある。すなわち、「技術」「普及率」の場合、「ゼロ」が出発点であるのに対し、こちらの出発点は現在の自動車保険であるから、今がピークであり、これから台形に近い形の放物線を描きながら下降していくことになる。

 

PL保険に入れ替わるという見方

 

「保険」の目盛が「普及率」よりも大きいということは、普及率の拡大よりもさらにゆっくりとした速度で「保険」は変化していくということである。それはなぜだろうか。ドライバーの責任ではなく、メーカーの責任である製造物責任が問われ、自動車保険がPL保険に代わるのではないのか。結論を先に言えば、自動車保険がPL保険に入れ替わることはない。部分的にそれはあっても全面的にはあり得ない。まずは、この点を明確にしよう。

レベル4の完全自動運転車においては、そもそも「ドライバー」という概念がないため、これまでのような対人、対物賠償の考え方は成立しない。ドライバーに起因する事故がなくなり、「自動運転システムの欠陥・故障を原因とする事故」に置き換わる。そして、この部分はPL保険によってカバーすべき事故である。

しかし、完全自動運転車による事故の原因は「自動運転システムの欠陥・故障」だけであろうか。道路の欠陥、信号等の故障、サイバー攻撃などを原因とする事故など他にも原因が考えられる。そして、何よりも大きいのは「歩行者や自転車の不注意、他車ドライバーの過失」である。これには、当人の単なる不注意だけではなく、気象条件、道路の形状や交通渋滞等の道路の状況などが複雑に絡み合うケースが考えられる。

 

「被害者救済」という原理・原則

 

これらの原因によって被害者が生じた場合、自動運転車にはなんらの原因もないから何もしなくてよいということになるのであろうか。被害者が蓄えを持っていたり、傷害保険等の保険に加入していたりしていれば大丈夫なのだが、そうでない場合が当然あり得る。だからといって国や自治体が税金を使って救済するというのもなかなか難しいことだ。つまり、「被害者救済」の観点からは、誰かが手を差し伸べるしかないのである。

こう考えた場合、現在の自賠責保険の「運行供用者責任」の考え方が頭に浮かんでくる。確かにこれは被害者に対する賠償責任が必ず発生する「絶対責任」ではないが、誰もが、「無過失責任」の名の下で、それに近い運用になっているという実感を抱いているだろう。

すなわち、レベル4の完全自動運転を含めて、車に起因する事故に関しては、まずは「運行供用者」に第一次の責任を課すことで被害者の救済を図り、そこから先は「求償」の形で責任関係を明確にするという考え方が一定の説得力を持つのである。

この場合、最も大きな問題は「歩行者や自転車の不注意、他車のドライバーの過失」のみを原因として事故が生じた場合の取り扱いである。さすがに、これに関しては当人の自己責任を問うべきという主張に説得力があるだろう。また、対物賠償に関してこうした考えを適用することには大きな抵抗があるだろう。おそらく様々な議論が生じるはずだ。

ともあれ、自動車保険がPL保険に入れ替わるというような単純な話ではないことだけは確かである。次回、保険についてさらに話を先に進めてみたい。

 

日本損害保険代理業協会アドバイザー

栗山 泰史