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保険の虫眼鏡(第23回)

 

「自動運転」の自動車保険への影響(その4)

 

 前回。自動運転の自動車保険への最大の影響は、PL保険が代替することで自動車保険がなくなるということではなく、事故が少なくなっていく、場合によってはほとんどなくなっていくことによる保険料の低下に絞られると述べた。今回は、この点に関してさらに深掘りしてみたい。

 

保険料低下の速度

 

まず、完全自動運転に至らずとも、明らかに事故は大幅に減少するだろう。人に頼らずともブレーキが自動で効くだけでも相当の変化である。そして、その影響は対人や搭乗者傷害、人身傷害の保険料のダウンにつながることが確実だ。

これに対して、対物と車両の場合は、少し異なる要素があるように思える。保険料を決定するのは事故頻度(F)と一件あたりの損害額(D)である。自動運転によって事故頻度(F)が低下することは確実である。しかし、損害額(D)はどうであろうか。自動運転車は複雑なメカニズムを持つ。そうであるがゆえに修理費用の高額化などによって一件当たりの損害額が大きくなると考えられる。結果的に、(F)×(D)で決まる保険料は、対人などに比べた場合。事故の減少ほどには低下しないと考えられる。イメージで思うより、保険料低下の速度は速くはないのである。

 

保険会社の利益

 

また、利益という点で考えれば、保険会社にとってはこれが増大するというメリットが生じるかもしれない。かつて、建物が木造から鉄筋に変化し、さらに消防力の強化によって火災事故そのものが減少していった時代を思い出せばそれがよく実感できる。風災や水災等の自然災害をカバーする前の火災保険は損保各社にとって、文字通りの「ドル箱」であった。

事故が徐々に減少する場合、それに合わせて保険料率も徐々に切り下げられることになるのは当然だ。しかし、保険料が下がっていく過程に逆に利益を増やすメカニズムが隠されている。なぜなら、保険料率の算出に当たっては事故統計を用いるが、それ自体が過去のものだからだ。

時間軸を置いて考えてみよう。将来に向かって事故発生頻度が低下傾向にある場合、ある時点での統計をベースに料率を算出すると、その時点では正しいのだが、それ以降においては「割高」という結果になる。この「割高」分が利益のかさ上げにつながるのである。料率算出においては、これに備えて「トレンド修正」という技法が用いられる。つまり、「割高」が生じないように調整するのである。しかし、所詮は保険会社による調整であるから、利益が増大の方向に向かうと考えてよいだろう。

もちろん、現状における保険会社間の激しい保険料競争の現状を見ると、逆に「トレンド修正」が根拠のない保険料引き下げの理由に用いられ、破滅的な引き下げ競争が生じるかもしれない。昔、「自社の引き受ける保険の事故率は低い」という根拠のない楽観主義で競争が行われ、それが保険会社の破綻につながるという時代があった。こう考えれば、利益を増大させるというのは甘い見通しに過ぎないのかもしれない。ともあれ、保険会社としては自動車保険の料率算定において、複雑な対応が求められるのである。

 

次回、代理店としてどう対応するかを含め、このテーマの最後として記してみたい。

日本損害保険代理業協会アドバイザー

栗山 泰史