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保険の虫眼鏡(第26回)

 

顧客本位の業務運営(フィデューシャリー・デューティー)

 

 新聞紙面の金融欄に「フィデューシャリー・デューティー」という言葉を見ることが多い。金融庁が、新しい金融行政の方向を示す中で使用している言葉だ。しかし、最近では、さすがに長くて難しいカタカナ英語は国民に馴染みにくいと考えたのか、「顧客本位の業務運営」という「意訳」に置き換えられ始めたようだ。

 

AIJ事件と受託者責任

 

 訳ということでいえば、わが国において、「フィデューシャリー・デューティー」という言葉は、長く「受託者責任」と訳されてきた。決して最近になって金融庁が見出した言葉というわけではない。この淵源は古くイギリスの衡平法に遡る。そして、近現代史においては、1929年の大恐慌後、フランクリン・ルーズベルト大統領が議会で述べた次の発言が有名である。「国民のお金を扱ったり利用したりする立場にある人は、基本的に他人のために行動している受託者の立場(フィデューシャリー・デューティー)にあることを確認しよう。」そして、その後、金融の枠組みは「フィデューシャリー・デューティー」という概念の上に構築されていったとされる。

筆者が初めてこの言葉に接したのは、AIJ事件が世の中を騒がしていた頃である。AIJ事件とは、「AIJ投資顧問が全国の企業年金基金などから預かった資産の運用に失敗、ほとんどを消失させた事件。94の基金などから預かった計約1460億円の運用に失敗しながら、成功しているように見せかけるうその報告書をつくっていた。浅川和彦社長と傘下の証券会社社長らは詐欺容疑で警視庁に逮捕され、立件された被害額は計約200億円にのぼる。(2012年9月5日 朝日新聞 朝刊)」というものである。まさに、AIJ投資顧問は、「受託者責任」に関し、大きな問題を引き起こしたのである。そして、これを機に運用機関としての投資家に対する責任が意識されるようになっていった。

 

「金融モニタリング基本方針」から「金融行政方針」へ

 

金融庁が、「フィデューシャリー・デューティー」という言葉を意識的に使用した最初のケースは、2014年9月11日に公表した「金融モニタリング基本方針」である。ここでは、「商品開発、販売、資産運用、資産管理それぞれに携わる金融機関が、その役割・責任(フィデューシャリー・デューティー)を果たし、資産運用能力の向上に努める必要がある」と記されている。

「金融モニタリング基本方針」は、2015年に新たに就任した森信親長官の下で「金融行政方針」に衣替えし、金融庁の新機軸として策定されることになる。「金融モニタリング基本方針」が金融行政のうち「監督」と「検査」に焦点を当てていたのに対し、「金融行政方針」は金融行政全般を視野に入れたものになった。2015年9月18日に公表された「平成27事務年度金融行政方針」では、この点について「(金融行政方針は)金融行政が何を目指すかを明確にするとともに、その実現に向け、平成27事務年度においていかなる方針で金融行政を行っていくか」を示すものと記している。

この中で、「金融行政の目指す姿・重点施策」という大項目の中の一つとして「フィデューシャリー・デューティーの徹底を図る」ことが掲げられている。具体的には、「商品開発、販売、運用、資産管理それぞれに携わる金融機関の行動が、真に顧客のためになっているかを検証するとともに、この分野における民間の自主的な取組みを支援(系列販売会社の適切な経営の独立性、顧客本位の経営姿勢と業績評価の整合性等を検証)」と記されている。

 

「平成28事務年度金融行政方針」

 

 フィデューシャリー・デューティーについての流れは、翌年にも引き継がれていく。2016年10月21日に公表された「平成28事務年度金融行政方針」における「金融機関等による顧客本位の業務運営(フィデューシャリー・デューティー)の確立と定着」がそれである。フィデューシャリー・デューティーは、ここでついに「顧客本位の業務運営」という言葉に「意訳」されるのである。そして、一年前に比較して詳細な記述がなされ、次の四つの柱が示されることになった。

 

①フィデューシャリー・デューティーのプリンシプルの確立と定着

②顧客が直接・間接に支払う手数料率(額)及びそれがいかなるサービスの対価なのかを明確化

③商品のリスクの所在等の説明(資料)の改善

④金融機関による顧客本位の取組みの自主的な開示の促進

 

 このような経緯を辿りながら、次第にフィデューシャリー・デューティーという考え方が金融行政において重きをなしてきたのである。次回以降、さらにこれに焦点を当てて論を進めていきたい。

 

日本損害保険代理業協会アドバイザー

栗山 泰史