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保険の虫眼鏡(第28回)

 

顧客本位の業務運営(その3)

 

 前2回、顧客本位の業務運営(フィデューシャリー・デューティー)に関する事実関係を辿り、2014年9月11日公表の「金融モニタリング基本方針」、2015年9月18日公表の「平成27事務年度金融行政方針」、2016年10月21日公表の「平成28事務年度金融行政方針」の内容を確認した。併せて、金融審議会の報告書に関しても一瞥した。

 

「顧客本位の業務運営に関する原則」の内容

 

そして、これらの「総決算」ともいうべきものが、2017年1月19日に案が公表され、2月20日を期限とするパブリックコメントを経て、2017年3月30日に内容が確定した「顧客本位の業務運営に関する原則」である。繰り返しになるが、これは、以下の「7つの原則」から成り立っている。

①顧客本位の業務運営に係る方針等の策定・公表等

②顧客の最善の利益の追求

③利益相反の適切な管理

④手数料の明確化

⑤重要な情報のわかりやすい提供

⑥顧客にふさわしいサービスの提供

⑦従業員に対する適切な動機付けの枠組み

 

この原則の項目ごとの詳細については、金融庁のHPに3月31日付で『「顧客本位の業務運営に関する原則」の確定について』と題する告知が掲載されているので、そちらをご参照願いたい。

http://www.fsa.go.jp/news/28/20170330-1.html

 

「金融事業者」とは・・・

 

 以下では、この原則の留意点について記しておこう。何よりも重要な点は、これは法令や監督指針に定められるルールではないことである。従って、拘束力は一切ない。金融事業者がこの原則を受け入れるかどうかを自発的に決定するのである。受け入れないとしても格別のペナルティは何もない。

 しかも、「金融事業者」が対象であるが、金融庁はこの定義を設けていない。公表された文書によれば、『本原則では、「金融事業者」という用語を特に定義していない。顧客本位の業務運営を目指す金融事業者において幅広く採択されることを期待する。』とされるのみである。

こうなると「代理店は対象になるのだろうか」という疑問が生じるかもしれないが、それは代理店が各自で決めることなのである。2017年4月24日付で ほけんの窓口は、「グループ株式会社 社員一同 代表取締役社長 窪田 泰彦」の名で、既に採択を公表している。つまり、ほけんの窓口は自らを金融事業者と位置付けたのである。

 

「コンプライ・アンド・エクスプレン」

 

同社の宣言の名称は、『お客さまにとって「最優の会社」宣言』である。宣言の名称が「顧客本位の業務運営」でないことに疑問を感じる人がいるかもしれない。しかし、むしろ、これは正しいやり方なのである。この宣言を採択する場合、単に「採択する」と宣言すればよいというものではない。採択に当たっては、具体的な対応方針を自らの分かりやすい表現で示すことが求められるのである。先に掲げた金融庁の文書では次ように記されている。

『具体的には、本原則を採択する場合、下記原則1に従って、

・顧客本位の業務運営を実現するための明確な方針を策定・公表した上で、

・当該方針に係る取組状況を定期的に公表するとともに、

・当該方針を定期的に見直す

ことが求められる。さらに、当該方針には、下記原則2~7に示されている内容について、

・ 実施する場合には、原則に付されている(注)も含めてその対応方針を、

・ 実施しない場合にはその理由や代替策を、

分かりやすい表現で盛り込むことが求められる。』

 この点は、同じような位置づけにあるコーポレートガバナンス・コードやスチュワードシップ・コード等と異なるところである。ちなみに、これらに関しては「コンプライ・オア・エクスプレイン(遵守か説明か)」の仕組みが適用される。「遵守」する場合はその旨の表明のみで足りるが、遵守しない場合はその理由を「説明」することが必要になるわけである。

これに対して、顧客本位の業務運営に関する原則は単に「遵守」の表明では完結せず、「どのように遵守するか」について自ら表現しなければならない。この点を捉えて、野村総合研究所の大崎貞和氏は「コンプライ・オア・エクスプレイン」ではなく、「コンプライ・アンド・エクスプレイン」というべきであると述べている(内外資本市場動向メモNO.16-17)。

 

日本損害保険代理業協会アドバイザー

栗山 泰史