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保険の虫眼鏡(第31回)

 

顧客本位の業務運営(その6)

 

第一の流れが大蔵省保険部時代の実体的監督主義、これは今や、はるか遠い昔のものとなっている。第二の流れが金融「処分」庁によるルールベース、ドラマ半沢直樹に描かれた金融庁の姿を思い出すと分かりやすい。現在、多くの人が抱く金融庁のイメージは未だにこれであろう。

そして、今、第三の流れとしてプリンシプルベースが本格的に登場しようとしている。金融庁は原則を示し、それを受けて民間事業者が創意工夫を凝らして「顧客本位の業務運営(フィデューシャリー・デューティー)」に勤しむという仕組みである。ただし、プリンシプルベースとはいってもルールがなくなるわけではない。ルールとプリンシプルのどちらに軸足を置くかという点のみが第二と第三の流れの相違である。

第二と第三の流れの間に「金融規制の質的向上(ベター・レギュレーション)」という動きが存在し、2008年4月18日に金融庁は「金融サービス業におけるプリンシプル」を公表している。結果を振り返れば実態的に軸足がルールベースから外れることはなかったものの、今のプリンシプルベースへの移行の先駆けとして評価すべき動きであろう。

 

保険代理店の扱い

 

金融行政における歴史的な流れを踏まえた上で、以下で、プリンシプルの具体的な形である「顧客本位の業務運営に関する原則」を見て行こう。以前にも述べたように、この原則の対象は「金融事業者」とされているが、金融庁はこの用語を特に定義していない。「顧客本位の業務運営を目指す金融事業者において幅広く採択されることを期待する。」とのみ記している。

パブリックコメント(以下「パブコメ」)25はこれに関連するものである。「あえて定義付ければ『顧客本位の業務運営』を目指す者は全て『金融事業者』であると解釈すればよいか。その場合、規模の大小を問わず例えば「保険代理店」も金融事業者という位置付けになると理解してよいか。」という問いに対して、金融庁は「本原則では、「金融事業者」という用語を特に定義しておらず、顧客本位の業務運営を目指す金融事業者において幅広く採択されることを期待しており、ご指摘の保険代理店が排除されるものではありません。」と答えている。

絶妙な答え方に感心してしまう。「対象になる」と答えるとそこに「ルール」が生じることになる。「排除されない」と答えることで、そこから先は保険代理店が個々に判断するわけだが、結果的には、保険代理店も金融事業者に含まれることが確定してしまうのは誰の目にも明らかであろう。

 

採択する場合・・・

 

保険代理店が金融事業者として本原則を採択する場合、原則1に従うことになる。原則1は、原則2から7と異なり、採択する場合の手続きを示している。この点で、原則1は「HOW」にあたり、原則2から7の「WHAT」とは異なる位置付けが与えられている。

原則1は、「金融事業者は、顧客本位の業務運営を実現するための明確な方針を策定・公表するとともに、当該方針に係る取組状況を定期的に公表すべきである。当該方針は、より良い業務運営を実現するため、定期的に見直されるべきである。」と定められている。

これに関しては、パブコメ45に「定期的な公表とは、どの程度の頻度を想定されているのか。また、定期的な見直しについては、どうか。公表方法は各社が判断してよいか。」という問いがある。これへの回答は、「本原則はプリンシプルベース・アプローチを採用しており、採択した金融事業者にはベスト・プラクティスを目指して主体的に創意工夫を発揮することが求められることから、      当局において具体的な解釈を示すことは適当ではありませんが、原則1.に基づく取組状況の定期的な公表の頻度については、本原則の趣旨を踏まえれば、少なくとも年に一度は行うことが適当と考えられます。また、方針の見直しについては、少なくとも定期的な公表を行う際に見直しの検討を行うことが適当と考えられます。」というものである。

原則を採択する場合には、年に一度の公表とその際に見直しの検討を行うことが必要になると覚悟するべきであろう。

 

日本損害保険代理業協会アドバイザー

栗山 泰史