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保険の虫眼鏡(第34回)

 

顧客本位の業務運営(その9)

 

前回、KPI(Key Performance Indexの略。顧客本位の業務運営の定着度合を客観的に評価できるようにするための成果指標)について触れた。いくつかの金融事業者が「顧客本位の業務運営に関する原則(以下、「原則」)」の公表とともにKPIを公表しているが、ひとたび公表するとモニタリングの対象になるため、多くの金融事業者が当惑するのはよく理解できるところである。

日経新聞2017年6月30日付の記事は、『金融機関が悩む成果指標、「幻のベンチマーク」 に嘆き節』と題して、『(KPIとして公表すれば)当局も含めた対外公約となり、うまくいかなくても撤回するわけにはいかない(関東の大手地方銀行)』との声を伝えている。また、同記事の中で、『実は、役所がKPIの参考になる「ベンチマーク」をつくり、金融業界に提示する構想があった。』が『当局がベンチマークを示せば、それがミニマムスタンダード化し、「これさえ守れば問題ない」と誤解されることを懸念して見送られた。』と伝えている。

特に、スタッフの少ない地方銀行の悩みは深く、『見かねた第二地方銀行協会が勉強会を開催。講師に招かれたコンサルタントがKPI案などを例示した』といった動きや、『近畿財務局が地銀との意見交換で、顧客に販売する投資信託をどう選んでいるかに言及した』等の地方財務局の動きを報じている。

 

「原則」の共通化・標準化

 

保険代理店の場合、KPI以前の問題として、そもそも「原則」を採択すべきかどうかが悩ましいというのが現実であろう。「本原則では、『金融事業者』という用語を特に定義しておらず、顧客本位の業務運営を目指す金融事業者において幅広く採択されることを期待しており、ご指摘の保険代理店が排除されるものではありません。」というのがパブコメ25での金融庁の見解である。このようにいわれてしまうと保険代理店としても無視はできない。

そこで、誰しも考えることは「誰かがモデルを作成すればよい」ということである。つまり、共通化・標準化である。例えば、代申の保険会社、代協、企業代理店の同業会等である。しかし、残念なことに金融庁はKPIの場合と同様に、「原則」の共通化・標準化には否定的な見解を示している。パブコメ41は、『例えば一般社団法人生命保険協会の「行動規範」は(中略)会員各社の統一的な規範として位置づけられている。一方、(中略)「横並びに陥ることなく」とあるが、これは今回の「原則」の採択にあたっては、業界団体が方針や標準的な指針を示すことは望ましくないと考えていることを意図していると理解すべきか。』という質問である。これに対する金融庁の回答は、『本原則は各金融事業者が主体的に創意工夫を発揮することを求めるものであり、指針等の内容によるものの、金融事業者の対応を示すような業界団体が指針等を設けることは必ずしもその趣旨には合わないものと考えます。』となっている。誰かがモデルを作成することは「趣旨に合わない」のである。

 

保険会社との関係

 

同じくパブコメ41の中に、『保険業界では保険会社が保険募集業務を保険代理店に委託している形態を採っていることが多いが、仮に委託元である保険会社が「原則」を採択した場合、その効果は当然に委託先である保険代理店の保険募集活動にまで及ぶと理解すべきか。また、そのような場合、委託先である保険代理店においても、委託元の保険会社が採択した原則と齟齬が生じないことに留意しつつ自ら原則を採択することが望ましいか、もしくは、委託元である保険会社が採択した原則の内容とその遵守を組織内に徹底すれば足りると考えてよいか。』という質問がある。

これに対する答えは、『ある金融事業者が顧客本位の業務運営を実現するための明確な方針を定めることで、当然に当該金融事業者の委託先にまでその効果が及ぶとは考えられません。ある金融事業者が、その委託先の業務も含めて顧客本位の業務運営を実現するための明確な方針を定めることも考えられますし、個々の委託先がそれぞれ顧客本位の業務運営を実現するための明確な方針を定めることも考えられます。』というものである。保険会社が採択したから保険代理店は採択しないでよいという考え方は明確に否定されている。そして、保険会社が保険代理店の分も合わせて採択するという考え方は否定されてはいないものの、全体の文脈からすれば、それよりも保険代理店が自らの力で採択するべきだというニュアンスを感じるのである。

保険代理店として、必ず「原則」を採択しければならないかというと銀行や証券会社、保険会社ほどには強く要求されているとは思えない。しかし、保険代理店として採択する場合には、自らの力で中身を決定することが必要である。その次に、さらにKPIをどう定めるかという悩みが待っているという構図なのである。

日本損害保険代理業協会アドバイザー

栗山 泰史