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保険の虫眼鏡(第35回)

 

顧客本位の業務運営(その10)

「顧客本位の業務運営に関する原則(以下、「原則」)」に関しては、保険代理店も「金融事業者」に含まれるため、これを採択するかどうかを検討する必要がある。採択する場合には、KPI(Key Performance Indexの略。顧客本位の業務運営の定着度合を客観的に評価できるようにするための成果指標)の策定を併せて検討することが必要になり、定めたKPIは金融庁のモニタリングの対象になる。

もっとも、現在、金融庁は検査と監督のあり方を抜本的に改定することを検討しており、テレビドラマの「半沢直樹」に出てきたような「強面」の検査ではなく、これからは「対話」が検査のベースになるといわれている。「金融処分庁」から「金融育成庁」への変身というわけである。

そして、「原則」を採用するに当たっては、日本代協その他の同業者団体がモデルを作成し、それに準拠するということもできず、また、代理店ということで保険会社に依存すればよいかというと、それに関しても否定的な見解が示されている(パブコメ41)。

 

「規制」から「競争」へ

 

「原則」の背景には、市場原理の考え方がある。ルール・ベースの場合は、ルールを守ることが絶対に必要であり、ルールを守れば保険市場に居続けることができるが、ルールを守れなければ金融庁の行政処分によって保険市場からの撤退を要求される。すなわち、「規制」によってダメな事業者を市場から追放するという考え方である。

一方、プリンシプル・ベースの場合は、金融庁はプリンシプル(原理・原則)を示すだけで、そこから先は事業者の自由な選択に任される。顧客のためになる事業運営を自らの力で策定し、その優劣が市場で試される。すなわち、「競争」によって優秀な事業者が市場で勝ち残るという考え方である。

だから、「原則」は採択を強制されているわけではない。「採択するもしないも自由、どんな内容にするかも自由、だけど人には頼らず自分自身で作れ、いったん作った限りはそれを実現するためにKPIで管理しなさい」というわけである。

 

金融庁による主旨の説明

 

これを踏まえて、今一度、金融庁が「原則」に関して記した文章を見てみよう(「顧客本位の業務運営に関する原則」の「経緯と背景」から抜粋)。

「本来、金融事業者が自ら主体的に創意工夫を発揮し、ベスト・プラクティスを目指して顧客本位の良質な金融商品・サービスの提供を競い合い、より良い取組みを行う金融事業者が顧客から選択されていくメカニズムの実現が望ましい。」つまり、市場での競争促進が謳われている。

 さらに続けて、「そのためには、従来型のルール・ベースでの対応のみを重ねるのではなく、プリンシプル・ベースのアプローチを用いることが有効であると考えられる。具体的には、当局において、顧客本位の業務運営に関する原則を策定し、金融事業者に受け入れを呼びかけ、金融事業者が、原則を踏まえて何が顧客のためになるかを真剣に考え、横並びに陥ることなく、より良い金融商品・サービスの提供を競い合うよう促していくことが適当である。」

つまり、自分自身の力で「顧客本位の業務運営」を編み出し、それをもって同業者と競争せよというのである。この時の金融庁の役割はプリンシプル(原理・原則)を示すだけで、具体的な内容は事業者が自分で作るものとされ、主体はあくまでも事業者であることが明確になっている。

 

ルールを守ることは当然

 

ただし、ここで決して忘れてはならないのは、「従来型のルール・ベースでの対応のみを重ねるのではなく」という形で、ルールがなくなるわけではない旨が記されていることである。保険においては保険業法やそれに基づいて金融庁が定めるルールがなくなるという事態は決してありえない。従来は、ルールを守れば百点満点であった。それが、ルールを守ることは当然だが、それだけでは十分ではなく、ルールに加えて独自の力で「顧客本位の業務運営」を実行してこそ百点満点という構造になっているのである。

次回以降は、「顧客本位の業務運営に関する原則」の具体的な中身である原則の2から7までがどのような内容になっているかを具体的に見て行きたい。

 

日本損害保険代理業協会アドバイザー

栗山 泰史