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保険の虫眼鏡(第38回)

 

金融庁が公表した二つの重要文書

 

この間、金融庁は二つの重要な文書を同庁HPに公表している。一つ目が、10月25日付の「平成28事務年度金融レポート」である。二つ目が11月10日付の「平成29事務年度金融行政方針」である。事務年度という言葉に関し、「これは、なんだろう」と疑問を持つかもしれない。事務年度とは、7月1日を始点とし、6月30日を終点とする年度で、金融庁はこれをベースに行政事務を行うことになっている。例えば、人事もこれに合わせて行われる。

 

二つの文書の関係

 

この二つの文書の関係について述べてみよう。金融庁は、平成26事務年度までは、「金融モニタリング基本方針」と称する文書を公表していた。これは表題が示す通り、検査と監督に重点を置いた方針表明であったが、平成27年度以降、今年で就任3年目を迎える森信親長官の下で刷新されることになった。それが、「金融行政方針」である。

この文書では、検査・監督のみならず金融行政全体を視野に入れて、「金融行政が何を目指すかを明確にするとともに、その実現に向け、当該事務年度においていかなる方針で金融行政を行っていくか(同庁HPより)」を示すことになっている。

そして、金融庁が「金融行政方針」に基づき当該事務年度において行ってきたことの進捗状況や実績等の評価を掲げる文書が「金融レポート」ということになる。このため、金融事業者にとって、この二つのレポートは、何よりも注目すべき重要な文書なのである。

 

平成28事務年度金融レポート

 

この二つのレポートにおいて、保険はどのように取り扱われているのであろうか。結論を先に言えば両方ともに保険に関する記述は少なく、特に損保に関してはほとんど何も書かれてはいない。現時点での金融行政の課題を考えれば、顧客本位の業務運営の実現、地方銀行を中心とする地域金融機関の抱える問題の克服、FinTech等の新たな課題への対応、金融庁自体の改革が最優先であることは明らかであり、保険に関する記述が少ないのは当然といえるのかもしれない。

まず、「平成28事務年度金融レポート」を見てみよう。全体の構成は、① 国内生命保険市場の将来性、② 顧客本位の業務運営、③ 保険会社の資産運用の高度化とERM への取組み、この三つの柱で構成されている。

国内生命保険市場に関しては、「死亡保障ニーズの減少を第三分野等の保障性商品の拡販により補って」いるものの、「将来的に縮小が予想される中で、収入保険料の量的拡大といったビジネスモデルは、全体としては中長期的には成立しない可能性がある」としている。

顧客本位の業務運営に関しては、特に、銀行窓販に関して言及している。すなわち、「2016年1月以降、金融機関代理店における保険商品の販売額は、外貨建商品の販売額の落込みや一部の円建商品の販売停止等により大幅に減少していること」、「2016 年以降、過度な手数料率の上乗せ等のキャンペーンは中止されていること」が指摘されている。

また、手数料の開示に関しては、「2016年10月以降、保険商品の販売にかかる透明性の向上を図る観点から、投資性の強い保険契約(特定保険契約)については、主要行・地域銀行等で代理店手数料率の開示が行われているが、それ以外の保険は、ほとんどの代理店で手数料率の開示が行われていない。また、一部の信用金庫・信用組合、証券会社では依然として全く代理店手数料率を開示していないところも見受けられる」こと、その一方で、「一部の金融機関代理店では、特定保険契約に留まらず、円建平準払保険についても代理店手数料率を開示しているほか、顧客に提示する設計書において手数料額を開示している事例もあった」ことなどが指摘されている。

さらに、「乗合代理店に対するインセンティブ報酬等のあり方」について、顧客本位の業務運営の観点から記述があり、「募集手数料については、乗合代理店の販売量の多寡に応じて決まるところが多く、必ずしも、乗合代理店における丁寧な顧客対応やアフターフォローなどの役務やサービスの「質」を的確に反映したものとはなっていないことが把握された」としている。

中でも、「乗合代理店における他社との競合を強く意識するあまり、インセンティブ報酬(キャンペーン手数料)と募集手数料を合算した場合に、初年度保険料を大きく超える水準の報酬等を乗合代理店に提示し、支払っているもの(中略)など、役務やサービスに照らした対価性に乏しく、「質」に問題があると考えられるものが認められ、また、金額水準(「量」)の高額化も進んでいる。インセンティブ報酬等も原資は保険契約者から預かった保険料であることを踏まえると、「質」・「量」ともに、顧客にきちんと説明ができる合理的なものとしていくことが重要である」とし、金融庁としての問題意識を具体的に示している。

 

平成29事務年度金融行政方針

 

最後に、「平成29事務年度金融行政方針」に触れておこう。冒頭に、金融庁の改革と検査・監督の見直しが掲げられ、金融処分庁から金融育成庁への変革について方向性が示されている。

保険会社に関しては、「持続可能なビジネスモデルの構築や事業戦略ついて対話行う」等の記述がある。そして最後に保険募集に関する記述があり、「保険募集については、金融機関代理店や一般の代理店を通じた販売活動等が適切になされるよう、保険会社、代理店の取組みに関し対話を行っていく」とされている。簡単な内容ではあるが、金融庁として、銀行窓販と乗合代理店による比較推奨販売を注視していることを読み取るべきであろう。

 

日本損害保険代理業協会アドバイザー

栗山 泰史