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保険の虫眼鏡(第39回)

 

重要なのは「ベスト・プラクティス」の策定

 

ある地域で代理店を対象とするセミナーの講師を務める機会があった。セミナー終了後、参加者のうちの何人かと意見を交換することになったが、その際に気付いたことがある。

 

代理店の普通の感覚

 

一人の代理店主のことだが、彼は、「顧客本位の業務運営に関する原則」(以下、「原則」)について次のように認識している。

・自分はずっと「顧客本位」で仕事をしてきた。

・それを具体的な形に表すために、「経営理念と行動指針」を作成している。

・社員一人ひとりに対しても様々な場を捉えてこれの徹底を図っている。

・「顧客本位の業務運営に関する原則」でなくても、現在の「経営理念と行動指針」をそのまま用いればよいと考えている。

 これらは、現時点で、「原則」の採択を検討している代理店に共通する感覚なのではないだろうか。だから、「原則」に対しては次のように考えることになる。

・金融庁は金融事業者が「原則」を採択する上でのモデルを示している。

・従って、これを参考に同じ趣旨の文章を作成することが必要だ。

・この場合、既存の経営理念や行動指針はそのまま活用できる。ただし、7つの原則に従わねばならないので、足らないところは補うこと、採択しない原則がある場合はその理由を付記することが必要になる。

 

「顧客本位の業務運営に関する原則」の特色

 

 これまでの「勧誘方針」や「コーポレートガバナンス・コード」、「スチュワードシップ・コード」が出来合いの文章をそのまま採用する仕組みになっていたため、こうした考えになることはよく理解できる。

 しかし、もう一度、金融庁の言葉に目を向けてみよう。このように書いてある。

・当局において、顧客本位の業務運営に関する原則を策定し、金融事業者に受け入れを呼びかけ、金融事業者が、原則を踏まえて何が顧客のためになるかを真剣に考え、横並びに陥ることなく、より良い金融商品・サービスの提供を競い合うよう促していく。

・(「原則」は、)金融事業者が顧客本位の業務運営におけるベスト・プラクティスを目指す上で有用と考えられる。

 

代理店における具体例

 

金融庁は、自らは「原則」を示したとしているが、金融事業者に同じような「原則」を作成しろとは言っていない。言っていることは、「原則を踏まえて何が顧客のためになるかを真剣に考え、横並びに陥ることなく、より良い金融商品・サービスの提供を競い合う」ことであり、そのために、「ベスト・プラクティスを目指す」ことを促しているのである。

そして、代理店に対しては100の代理店のヒヤリング結果を示し、ベスト・プラクティスの事例を具体的に示している。例えば、比較推奨販売における事例は以下の通りだ。まさに「具体的な内容」なのである。

(事例1)

1.目的

当社では、比較推奨販売に関する社内規則等の定着までには、一定の時間を要してしまうことから、研修等を通じた指導・教育に加えて、ルールの実効性等を把握する必要があると考えている。

2.取り組み事例

募集人が同一レベルで説明することができるようトークスプリクトの作成や      ロールプレイング形式による研修を実施している。また、比較推奨販売の実施      状況については、責任者が「意向把握確認書」を全件チェックしているほか、      比較推奨販売の適切性を検証するため、業務監査を外部監査機関に委託している。

3.成果

この結果として、比較推奨販売に関する社内規則等を、より実務に則したものとなるように改善した。また、募集人一人一人の理解が向上し、顧客から感謝の言葉を頂く機会が増えた。

 

真に求められるのは「ベスト・プラクティス」

 

もちろん、経営理念や行動指針のような形での文章を作成することは必要であり、重要である。しかし、もっと重要なことは、それに基づく具体的な行動、すなわち「ベスト・プラクティス」の策定である。だからこそ、究極のところでKPI(Key Performance Indicator)が必要になる。「ベスト・プラクティス」を「原則」の項目に従って具体的な形で策定し、事業者間でしっかりと顧客のために競争を行うことこそが求められているのである。

 

日本損害保険代理業協会アドバイザー

栗山 泰史