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保険の虫眼鏡(第40回)

 

保険代理店における「利益相反の可能性」

 

「顧客本位の業務運営に関する原則」の原則3に「利益相反の適切な管理」が掲げられている。「利益相反」とは何か。辞書には、「当事者の一方の利益が、他方の不利益になる行為のこと。」と書いてある。具体的な事例としては、弁護士法で、一人の弁護士が原告と被告双方の弁護を引き受けることを禁止していることを上げることができる。これはあちら立てればこちらが立たずという形で利益相反が生じるからだ。では、保険代理店の場合、何を「利益相反」として想定すべきなのだろうか。これに関して、原則3の(注)に次のように書いてある。

 

「金融事業者は、利益相反の可能性を判断するに当たって、例えば、以下の事情が取引又は業務に及ぼす影響についても考慮すべきである。

・ 販売会社が、金融商品の顧客への販売・推奨等に伴って、当該商品の提供会社から、委託手数料等の支払を受ける場合

・ 販売会社が、同一グループに属する別の会社から提供を受けた商品を販売・推奨等する場合」

 

保険代理店による利益相反

 

 二つの事情のうち上の方を読むと、まさにこれは保険代理店にそのまま当てはまる。販売会社である保険代理店は、商品の提供会社である保険会社から代理店手数料の支払いを受けている。これは長年の歴史の中で続いてきたことであり、また、世界各地でも行われていることである。こんな当たり前のことを、なぜ金融庁は問題にするのだろうか。しかも、主語は「販売会社」であるから、「利益相反」を引き起こす可能性があるとされているのは「保険代理店」である。

保険代理店は、保険会社の代理店であるが、実態的には顧客と保険会社の仲介役を担っている。具体的には二つの役割がある。一つは、顧客のために果たす役割で、保険のことをよく知らない顧客を知識の点で補い適切な形での保険加入に導くことだ。もう一つは、保険会社のために果たす役割で、保険会社に見込み客を仲介し、契約に関する様々な手続きを行う。その際、「第一次選択」という形で逆選択を防止する役割を担っている。

ということになると、保険代理店は、顧客寄りになる過ぎることで保険会社にとって好ましくない契約を生み出して保険会社の利益に反することがある。一方で、保険会社寄りになることで顧客を好ましくない契約に導き、顧客の利益に反することもある。そして、そのような場合に、顧客のため、または保険会社のためというのに加えて、自己の利益のためというのが理由になることも忘れてはならない。

 

保険会社による手数料の支払い

 

このような中で、原則3の(注)では、保険代理店が利益相反を起こす可能性がある事情として、「保険会社からの手数料の支払い」を上げている。しかし、保険代理店であれば誰でも、手数料を保険会社から貰っているからといって保険会社の利益を優先し、顧客をないがしろにすることなどあるはずがないと感じるはずだ。特に昨今は、「製販分離」という言葉が広く流布するようになっている。保険会社をメーカーとみなして、保険代理店はそれと対等の「保険販売会社」だという感覚があり、むしろ「顧客に寄り添う立場」の方が前面に出ている。手数料を貰うことが「利益相反」ということには大きな違和感があるだろう。

 

「利益相反の可能性」

 

手数料の支払いそのものが「利益相反」ではないことは明らかだ。しかし、金融庁が問題にしているのは、よく(注)を読んでみると、「利益相反の可能性」なのだ。この文章は実によく練られているように感じる。そして、これであれば思い当たることがあるだろう。例えば保険会社が行うキャンペーンへの参加である。期間を限定して手数料を上乗せするというものや、一定基準をクリアしたらボーナス手数料を支払うといったものがあるが、こうした際には、ついその保険会社の商品に顧客を誘導することが起こるかもしれない。また、キャンペーンでなくても、複数の保険会社の同じような保障内容の商品について手数料に差があるような場合も同様のことが起こるだろう。要は、保険会社が保険代理店に対して手数料を支払うという構造が「利益相反」を生み出す可能性があるということである。

こうした保険代理店の対応は、改正保険業法に定められた募集人の義務によって、既に厳しく禁止されている。しかし、「顧客本位の業務運営に関する原則」の下で、単にルールを守るだけではなく、より一層、保険会社よりも顧客の利益を優先すべき気運が生み出されようとしているのである。

 

日本損害保険代理業協会アドバイザー

栗山 泰史