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保険の虫眼鏡(第42回)

 

ホールインワン保険「秘話?」

 

 前回に続き、「閑話休題」。今回は、ホールインワン保険について記してみたい。

今から数えて30年以上前、30歳代の半ばまでの約10年間、当時の安田火災という会社で賠償責任保険の企画・開発・管理の仕事に携わっていた。いわゆる商品業務であり、格好よくいえばアンダーライターである。10年もの長い期間、これに携わっていたので、当時は表に出せなかった「裏話」もいろいろ経験した。今回は今では時効の裏話の一つである。若干の記憶違いがあるかもしれないが、大筋では間違っていないと思う。

 

「射幸性」の問題

 

 1980年代、賠償責任保険の新商品開発は、各社が独自に行うものがある一方で、損保協会の委員会を通じて業界として開発するものがあった。後者は、今でいえば公正取引委員会がいうところの「共同研究開発」だが、現在のような明確な「指針(共同研究開発に関する独占禁止法上の指針)」は存在しなかった。

 そうした共同作業の一つにホールインワン保険の開発があった。同じような頃の開発商品は、油濁賠償や非破壊検査賠償、消防設備賠償のようないかめしいものであったから、どこかウキウキするような商品であったことを覚えている。

 当時の大蔵省の認可を取るにあたって、最大の問題は「射幸性」であった。この言葉は賭け事に関して使われるが、要するにホールインワンという出来事は「事故」なのかということである。やったゴルファーは「幸せ」に浸り、周りの人もおすそ分けに預かるわけだから皆が「幸せ」、だからどこにも事故はない。事故は不幸なものなのだ。だからこそ、誰もが起こらないように努力する。しかし、それでも事故は起こるので保険の出番というのが保険の根底にあるロジックなのである。皆が幸せな出来事を保険でカバーすると、まさしくそれはモラルリスクの温床になるというわけである。

 大蔵省の担当官からは「外国に例はあるのか」と問われた。そして探したところ、フランスにあったのだ。あったといってもそれらしきものに過ぎない。しかし、一応あったし、少なくとも日本の慣習ではホールインワンをやった人の負担が大きいのは事実だから、大蔵省としては申請を認めようということになった。

 

外されたはしご

 

 本来なら、これで「めでたし、めでたし」となるところであるが、ここから混乱が始まった。実際には共同開発であるから、各社一緒に認可取得となるのが筋であるが、独禁法適用除外の保険ではないから各社がバラバラに認可申請することになる。そこでくじ引きが行われた。一番くじを引いた会社を他の会社がうらやむこと・・・。

第一号の認可を取ると、話題性の高い保険だから新聞・雑誌で大きく取り上げられる。一躍その会社は時の会社となった。しかし、混乱はここから始まった。次に認可申請した会社が、料率を3分の1にして申請したのである。業界としての共同作業はあくまでも標準を作るものであるから各社への拘束力はない。拘束すれば、それこそ独禁法違反である。だから、次の会社が自社独自の統計を加味して料率を3分の1にしたのは適正な行為なのである。そして、3番目以降の会社はそれをフォローすることになった。結局、はしごを外された格好となった最初の会社も追いかけて料率を下げるための変更認可申請を行うことで一連の騒ぎは終息した。

 

 もう一つ、おまけの話。その後、一定の期間が経って、損害率が見えてきたとき、この保険の損害率は300%を超えていた。そうなのである。やはり、元の料率が正しかったのである。大数の法則がいかに重要か、保険において共同行為がいかに大切か、そんなことを教えられる出来事であったのである。

 

日本損害保険代理業協会アドバイザー

栗山 泰史