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保険の虫眼鏡(第43回)

 

「ゲテモノ」こそが時代の寵児

 

 このところ、ちょっと変わった保険の話を続けている。「閑話休題」とお断りを入れているのは、この間の話はいわばコーヒー・ブレイクのようなもので、とても読者の皆さんの実務のお役に立つとは思えないからである。だが、喜んでよいのか悲しむべきなのか、こちらの方が読者の反応はよいようだ。

振り返ってみると、この連載の第26回から第40回までの、なんと15回も「顧客本位の業務運営」、「フィデューシャリー・デューティー」について書き続けていた。保険代理店にとって重要な課題であることは事実だが、読者の皆さんは「うんざり」しておられたのかもしれない。ということで深く反省し、「読者本位の執筆運営」の観点で、今回もコーヒー・ブレイクにお付き合い願いたい。

 

「下手物」と「上手物」

 

昔、10年以上の長い間、保険会社のアンダーライティング・セクションにいた。その頃、「下手物(げてもの)保険」という言葉がしばしば職場を飛び交っていた。「下手物(げてもの)」の意味は「普通とは違って、風変わりなもの」であり、反対語は「上手物(じょうてもの)」である。

当時の保険において、「上手物(じょうてもの)」は、建物や動産のような値段を付けることができる形あるもの、すなわち有体物を保険の目的とし、火災や落雷、爆発といった急激・偶然・外来の事故による損害をカバーする保険であった。最大の特徴はいかにも「大数の法則の申し子」のような保険であることである。

これに対して、「下手物(げてもの)」は、形がないものを保険の目的とし、形がないから事故も火災や落雷のような「華々しい」ものではなく、訳が分からないようなものなのである。例えば、ブランドなどはその典型である。確かに価値はあるのだが、そもそもどのようにして評価すればよいか分からない。これがダメになる時の原因になる事故はどのようなものなのか、これもよく分からない。そもそもブランドはそれを持つものの固有の価値であるから大数の法則が全く通用しない。いかにもアンダーライター泣かせのリスクなのである。だからこそ、「下手物」と称して、誰もができるだけ近寄らないようにしていたというわけである。

 

間にある利益保険

 

この中間にあるのが利益保険である。この保険は昔からあるが、「利益」は有体物ではないものの、利益を失う原因となる事故を「華々しい」ものに限定することで「上手物(じょうてもの)」の保険の仲間入りを許されていたといってよいだろう。しかし、この保険は「難しい保険」である。その理由は「利益」が有体物でないために保険の目的としての扱いが難しいからである。少しだけ「下手物」の雰囲気を醸し出しているのである。

 

「下手物」の時代

 

 長い保険の歴史の中で続いてきた「上手物」「下手物」という階級が今ではすっかり壊れている。今や建物や動産といった有体物よりも、ブランド、特許権のような権利、メモリーの中の情報などの方にはるかに大きな価値があるというようなことは日常茶飯事になっている。その背景にあるのが「経済のソフト化・サービス化」という大きな時代の流れである。これに伴って、新しいタイプの「下手物」が続々と登場している。

有体物が「華々しい」事故によって損害を被る時にこそ保険の出番というような昔の感覚で「下手物」を無視していれば、時代の流れに完全に取り残されてしまう。顧客からは「保険には何の価値もない」と馬鹿にされてしまうだろう。むしろ、「下手物」を上手に扱うことこそが保険に携わるものの腕の見せ所という時代がとっくの昔に到来しているのである。

 

日本損害保険代理業協会アドバイザー

栗山 泰史