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保険の虫眼鏡(第44回)

 

保険における「あんこと皮」

 

 今の時代、ケーキや和菓子の素晴らしさには、ただ驚くばかりである。近所にある人気のケーキ屋さんのシェフはフランスで修業したとのことで、店の前には、いつも行列ができている。素材を厳選し、甘さを抑え、色合いの美しさに気を配った和菓子には、歴史の中で培われた職人の技を感じさせられる。

筆者が子どもだったころは、余程の老舗でもない限り、今のようなこだわりには出会うことがなかった。饅頭は「あんこと皮」でできているが、甘いあんこの多さが評価の決め手であった。つまり、あんこが多く、皮の薄い饅頭こそが美味しい饅頭であった。

 

「収支相等の原則」と「給付・反対給付の原則」

 

わが国の火災保険は、第二次大戦後、長く損害率が低下し続ける時期があった。建物の構造が木造一辺倒から鉄筋等に変化し、消防設備や消防力が立派になるに伴い火災事故が減少したからである。損害率の低下はよいことだと思われるかもしれないが、これは困った問題を引き起こした。

保険には、「収支相等の原則」という原則がある。これは、「保険期間内に保険契約者から受け取る保険料総額」と「将来の保険金支払いのために積み立てた部分の予定運用益」の合計額(収入)が、「支払いを予定している保険金総額」と「保険制度(保険経営)を維持するために予定している経費」の合計額(支出)に等しくなるべきという内容である。

もう一つ、「給付・反対給付均等の原則」という原則がある。全体として収支均等していても、個々の保険契約の間に不平等があれば契約者は離反するだろう。そこで、個々の契約の保険料は、保険事故の発生の確率と補償の額に見合うように算出されるべきという内容である。

二つの原則は似たようなものであるが、内容は微妙に異なっている。全体の収入と支出に着目して均等を求めるのが収支相等の原則、個別の契約に着目して保険料とリスクの均等を求めるのが給付・反対給付均等の原則である。この二つの原則に大数の法則が重なり合って、保険は合理的なものになるのである。

 

「あんこと皮」の問題

 

そして、もう一つ、保険の原理原則を示す有名な言葉に「危険なくして保険なし」というものがある。火災のリスクがどんどん小さくなるということは危険がなくなっていくということである。先ほどの二つの原則をそのまま適用すれば、当時の火災保険は、危険がなくなることで一人ひとりの契約者が負担する個別の保険料が減り、そのことで保険会社に入る全体の保険料も減るという状態であった。

危険がなくなっていくことで支払い保険金は減るが、保険会社や代理店の経費はそれまでと同じようにかかる。つまり、保険料のうち保険金相当部分のウエイトが減ることになる。これを当時、饅頭の「あんこと皮」に例えて言い表した。保険金という「あんこ」が少なくなり、保険会社や代理店の経費という「皮」ばかりが多くなったというわけである。まさに、商品の価値という点で、火災保険は存亡の危機を迎えていた。

その後、火災保険が息を吹き返したのは、風災や水災をカバーするようになるなど、総合保険化の道を辿ったからである。保険料は値上がりしたが、あんこの量が増えることで「危険なくして保険なし」という困った状況を抜け出すことができたのである。

日本損害保険代理業協会アドバイザー

栗山 泰史