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保険の虫眼鏡(第45回)

 

テレマティクス自動車保険と等級制度

 

 テレマティクス自動車保険の存在感が高まっているように感じる。あえて「感じる」と記したのは、実際には、自動車保険全体に占めるテレマティクス自動車保険のウエイト自体はまだまだ高くないからである。それにも拘わらず強い存在感を感じるのは、世の中におけるデジタル化の進展、中でもあらゆるモノがインターネットにつながるというIoT(Internet of Things)の動きに直接結びついているからだ。さらに、デジタル化の動きの中で、保険にもInsurTechという大きな変化の波が生じ始めているが、まさにその中に位置付けられるのがテレマティクス自動車保険であるからだ。

 

テレマティクス自動車保険とは

 

 いまさらいうまでもないが、テレマティクスは、Telecommunication(遠距離通信)とInformatics(情報工学)の二つの言葉を合体してできた造語である。従って、テレマティクス自動車保険は、自動車に車載器を積み、インターネット等の通信で運転に関する様々な情報を取得することを前提に商品設計された自動車保険ということになる。これには2種類あり、一つは走行距離に応じて保険料の割引を行う「走行距離連動型(Pay As You Drive : PAYD)」、もう一つは走行距離に加え、アクセルやブレーキ操作等の運転行動に関するデータに基づいて保険料の割引を行う「運転行動連動型(Pay How You Drive : PHYD)」である。

 保険会社各社とも様々な形でテレマティクス自動車保険に関する商品開発を行っているが、現状では提供する商品が限定的なところに留まっている。最も力を入れているのはあいおいニッセイ同和損保で、2004年から「走行距離連動型」を販売してきたが、今年、「タフ・つながるクルマの保険」とのネーミングで本格的に「運転行動連動型」テレマティクス自動車保険の販売を開始している。この商品は、トヨタのコネクテッド・カーに限定して販売され、走行距離に加え、運転特性として速度超過・急加速・急減速による保険料の割引が行われる。この割引は、「安全運転のインセンティブ」という位置付けになっており、最大20%分、保険料が安くなる。

 

自動車保険における「等級制度」

 

 ところで、わが国においては長きにわたり、自動車保険には「等級制度」が設けられてきた。一般論として、保険料率は「特性料率」と「経験料率」の二つに区分される。特性料率の方は、自動車保険でいえば、用途や年齢といったリスク特性を反映する料率である。これに対し、経験料率は過去の事故の発生状況に基づく料率であり、リザルト・レーティングともいわれる。自動車保険の場合、等級制度に基づく保険料の決定は経験料率に属するものである。

 昔、1990年代の半ばに日米保険協議の結果を受けて、「リスク細分型自動車保険」というものが登場した。ここでいう「リスク細分型」は特性料率における細分化を意味している。アメリカからの強い要求によって登場した「リスク細分型自動車保険」であったが、このように大上段に構えなくても、実際には、わが国では経験料率を活用して究極の料率の細分化が既に実現していたのである。わが国の自動車保険は、等級制度を通じて、契約ごとに過去何年にも及ぶ当該自動車の固有の事故状況が反映する形になっているのである。

 

「等級制度」の価値

 

一つひとつの契約が等級制度によって異なる保険料になるという結果を見れば、実はわが国においては、かねてから「運転行動連動型」自動車保険が実現していたといえなくもない。このことは、わが国におけるテレマティクス自動車保険に一つの特性を与えることになる。すなわち、諸外国のテレマティクス自動車保険が「標準の保険料+テレマティクスによる割引」という二層構造であるのに対し、わが国の場合は「標準の保険料+等級制による割増引き+テレマティクスによる割引」という三層構造になるのである。等級制度がある分、テレマティクスの活躍のウエイトが小さくなっているといってもよい。それ位に等級制度は料率算定上、大きな効果を発揮しているのである。

等級制度がこれからも自動車保険を支える柱として機能し続けるか、それとも悪い意味でのレガシー(時代遅れのもの)となってテレマティクス自動車保険の発展を妨げるものになるか、自動車保険において、この問題は重要な課題である。この課題をもう少し具体的に考えてみよう。もし、ある新規参入の保険会社が等級制度に一切従わず、テレマティクス技術を徹底的に深めて取得したデータを用いてテレマティクス自動車保険を販売した場合、現在の等級制度をベースとする自動車保険に競争力があるのだろうか。テレマティクス自動車保険の強い存在感がIoTやInsurTechという世の中のデジタル化を象徴する言葉の中で生じているとするなら、答えは自ずと明らかなのではないだろうか・・・。

 

日本損害保険代理業協会アドバイザー

栗山 泰史