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保険の虫眼鏡(第46回)

 

自動運転車とPL保険

 

 自動運転車による事故に関して、政府の方針が決定した。「高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部・官民データ活用推進戦略会議」が4月17日付で公表した「自動運転に係る制度整備大綱」に詳細が記されているが、ポイントとなる点を原文から引用すると以下の通りである。

 

自動運転車による事故対応のポイント

 

・自動運転システム利用中の事故により生じた損害についても、従来の運行供用者責任を維持する。なお、保険会社等から自動車メーカー等に対する求償権行使の実効性確保のための仕組みを検討する。

・ハッキングにより引き起こされた事故の損害(自動車の保有者が運行供用者責任を負わない場合)に関しては、政府保障事業で対応する。

・組み込まれたソフトウェアの不具合が原因で自動運転車による事故が発生した場合については、製造物責任法の現行法の解釈に基づき、自動運転車の車両としての欠陥と評価される限り、自動車製造業者は製造物責任を負う。

・自動運転車の使用方法やリスクについて消費者が正しく理解するために、自動運転車には使用上の指示・警告が求められる。使用上の指示・警告が不適切な場合において「通常有すべき安全性」を欠いていると判断される場合があるため、「通常有すべき安全性」と使用上の指示・警告等の関係については、技術的動向を踏まえた継続検討課題とする。

 

自動車保険を優先適用

 

 何よりも重要な点は、被害者救済を最優先し、まずは自動車保険で対応することになったことである。ただし、必要に応じ、保険会社からの自動車メーカーへの求償を行うことになっている。また、欠陥が明らかな場合は、最初から自動車メーカーの責任とすることも明確になっている。

これを受けて、保険会社も自動車保険の改定を行う予定であり、一時しばしば喧伝された「自動車保険がPL保険に代わる」という代理店の心配は一応払拭されることになった。

元々、製造物責任(PL)は、絶対責任ではない。よく切れるナイフで手を切った場合、被害は生じているが誰もナイフメーカーの責任を追及することはない。被害と製品の欠陥の間に因果関係がある場合にのみメーカーは責任を負う。自動運転車の欠陥を被害者が立証することが必要なのである。しかし、被害者が複雑な自動運転車の欠陥を立証することなどできるはずがない。そこで、まずは被害者救済のために自動車保険を使う。その後、保険会社が支払った保険金を、欠陥を立証した上で自動車メーカーに求償する。これであればプロ同士のやりとりになる。ただし、保険会社にとってもこれは困難であるから「実効性確保のための仕組み」を検討することになっている。例えば、第三者的な技術研究所のようなものがこれに該当することになるだろう。

 

欠陥概念の拡大

 

これからの展開として目を離せないのは、上記のポイントのうち最後の段落である。「使用上の指示・警告」に問題がある場合、欠陥が認定される可能性が示唆されていることである。アメリカのPLを振り返ってみると、警告ラベルや使用説明書の不備等が欠陥と認定されるようになったことが、メーカーの責任を大きく拡大させる要因になっている。

仮に、今後の検討において「使用上の指示・警告」における欠陥の解釈が拡大することになれば、素人である個人の被害者でも簡単に欠陥を立証することができるようになるかもしれない。そうなれば、自動車保険ではなくメーカーのPL保険によって処理される事故のウエイトは高まる。これは、自動車保険からPL保険へのシフトを意味するのである。

 

日本損害保険代理業協会アドバイザー

栗山 泰史