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保険の虫眼鏡(第47回)

 

保険の売り切れ?

 

 今回は、四方山話というべき話題である。

1984年のアメリカ、そこでは保険を巡る大きな混乱が生じていた。それは、「Insurance Crisis(保険危機)」と称され、アメリカを代表する週刊誌「TIME」の表紙に「Sorry America!! Your Insurance Has Been Canceled」と記されたことが混乱の激しさを象徴していた。保険会社が大きな赤字を背景に、保険、中でも賠償責任保険の新規引受や更改を拒否し、また更改する場合でも何倍にも及ぶ保険料の引き上げを要求した結果、保険を購入することができない企業や人が巷に溢れたのである。

 そして何が起こったか。施設賠償責任保険がないため公園その他の公共施設が閉鎖に追い込まれた。医師賠償責任保険がないため医師、特に産科は診療を拒否した。PL保険がないため、メーカーはリスクの高い製品の製造を中止した。これに類する例は数限りない。

 

アンダー・ライティングの失敗

 

 背景には、当時のアメリカにおける賠償請求訴訟の増大と賠償金額の高騰があった。すなわち、賠償件数がどんどん増加する一方で、懲罰賠償金を含む一件当たりの賠償金がどんどん高くなったことで、世の中の賠償金の総額がうなぎ上りに増加したのである。それらの賠償金の支払いには保険が使われたから、賠償責任保険の収支は過去に類を見ないほど巨額の赤字となった。

それともう一つ、急激な賠償問題の展開に関する保険会社のアンダーライティング・ミスがあった。この時期、レーガン大統領による経済政策レーガノミクスによってアメリカの金利は高騰していた。賠償責任保険の場合、事故が起こってから保険金が支払われるまで、訴訟等によって相当多くの時間を要する。こうした特性を「Long Tail(長い尻尾)」というが、入ってきた保険料は、保険金として支出されるまでの期間、高い金利の下で運用が可能になる。それを当て込んで運用分を保険料の割引に活用するというキャッシュフロー・アンダーライティングという手法が当たり前のことになっていった。そして、それを免罪符のように激しい保険料引き下げの競争が行われた。もしかすると、訴訟において陪審員は「どうせ保険で支払われるから大丈夫」という感覚で安易に加害者の賠償を認定したかもしれない。となると、その末路は、いうまでもない。何年か過ぎた時、保険会社は莫大な赤字を被ることになった。

 

保険の売り切れと高騰

 

 わが国においてバブル崩壊の後に莫大な不良債権を抱えた銀行が何をしたか。自己資本比率の悪化の下で、貸出の拒否、貸し渋り、貸しはがしといった現象が起こったことは未だに記憶に新しい。保険会社の赤字は、資本を棄損する。保険においても銀行と同じことが生じる。保険の引き受けの拒否と保険料の大幅な値上げである。引き受けの拒否によって、買いたくても保険が買えないことを「Availability問題」という。一方、保険は買えるのだが、保険料が高すぎて手が出ないことを「Affordability問題」という。

 保険においても、一般の商品と同じように品切れで買えなかったり、商品はあっても高すぎて手が出ないという現象が生じる。保険会社の経営に問題が生じることによる保険契約者に対する最大の「裏切り」は破綻による保険金の不払いである。そして、それに加えて、「Availability問題」と「Affordability問題」の二つが保険契約者を含む国民への裏切り行為といってよいであろう。金融庁による保険会社の経営への公的規制は、「破綻」、「Availability問題」、「Affordability問題」の回避のために必要なものといってよいだろう。

 

日本損害保険代理業協会アドバイザー

栗山 泰史