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保険の虫眼鏡(第48回)

 

消費者を欺く保険?

 

 損害保険に携わっている人なら、誰でも、ゴルファー保険という保険があることを知っている。世の中にはたくさんのスポーツがあるのに、なぜゴルフなのだろうか。野球、サッカー、水泳・・・。それぞれ、スポーツごとにリスクは異なるわけだから、独自の保険があってもおかしくはない。実際には、スキー保険やテニス保険など、一部のスポーツにはそれぞれ個別の保険が存在する。

 

「新商品開発」という規制緩和

 

 損害保険会社にとって、なにがなんでも「新商品開発」が大切という時代がかつてあった。護送船団行政という言葉に象徴される「厳格な規制」と金融ビッグバンの下での「保険自由化」の端境期の頃である。

第一次大戦の後、日本の損害保険業界は激しい競争の時代を迎え、「危ない保険会社」が多く出てくることになった。これを教訓に、第二次大戦後、極端に保険引き受け能力が低下したこともあって、損害保険料率算定制度を中心に画一的な商品規制をベースとする「厳格な規制」が設けられた。

 しかし、その後、経済の高度成長の中で、保険会社をそこまで厳格に規制する必要があるのか、むしろ規制が保険会社に「レント(制度や規制などによって苦労せずに得られる利益)」をもたらしているのではないかという見方が出てきた。そして、少しずつ規制の見直しが進んでいった。当時の保険審議会がその中心にあった。打ち出したのはシンプルな改革であった。「需要の変化に対応するための商品開発・多様な保険商品」という形で、業界統一ではない様々な新商品の開発が求められたのである。

1975年ヨット・モータボート総合保険、1982年学生総合保険、テニス保険、家族傷害保険、1983年スキー・スケート総合保険、1985年医療費用保険、1987年こども総合保険、1989年介護費用保険・・・・といった商品がこの流れの中で登場した新商品である。

この中にゴルファー保険が入っていないのは、この保険はもっと昔に売り出されたものであるからだ。ただし、以前にもこのコラムで取り上げたことがあるが、特約であるホールインワン保険は、こうした流れの中で1982年に発売されている。そして、この頃に、テニスやスキー・スケート、野球といったスポーツに着目した保険が開発されている。

 

本当に魅力ある商品なのか・・・

 

ところで、各社が競い合って開発したこうした商品をどう評価すべきであろうか。こうした保険には、二つの点で問題がある。一つは「補償重複」である。もう一つは「付加保険料の重複」である。

「補償重複」に関して言えば、賠償における個人賠償保険(特約)、用具における火災保険(総合保険)、怪我における傷害保険、これらと補償が重複する。「付加保険料の重複」の方は、複数のスポーツをする人は、保険加入の都度、証券が発行され、その他の事務処理コスト等が発生するわけだから、スポーツごとに付加保険料を負担することになる。

金融庁が監督指針において、補償重複に関し、非常に規模しい目を向けるのは、今、目の前にある保険募集の実務を考えると酷なものであることはよく理解できる。しかし、保険のプロであれば、細分化されたリスクをカバーする保険が持つ問題は理解できるであろう。それは、確かに、究極のところで消費者を欺く一面を持っているのである。かつて、消費者運動家としてアメリカで名をはせたラルフ・ネーダー氏は「リスクを切り刻んだ保険の販売は消費者の不利益となる」旨を主張したが、背景にある論理は同じである。一時的に百花繚乱のごとく相次いだ新商品開発が、結果的には素人の思いつきの領域に留まり、その後、次第に退潮していったのは当然の帰結といえるだろう。

 

主役は消費者

 

 その一方で、二つの「重複」に目をつぶりさえすれば、保険会社や保険代理店にとって、これらの保険が顧客開拓に大きな意義のある保険であったことは間違いない。また、保険の普及にも一定の役割を果たしたのは事実であろう。しかし、保険業法改正による新しい保険募集ルールの下で、主役は消費者に代わった。ついに消費者が、こうした細分化された保険に真の意義があるかどうかを判断する時が来たといえるのではないだろうか。

 

日本損害保険代理業協会・アドバイザー

アイエスネットワーク・シニアフェロー

栗山 泰史