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保険の虫眼鏡(第51回)

 

「火災保険の陳腐化」という現実

 

損害サービス部門で長く活躍してきたある方から、とても興味深いお話を聴く機会があった。その方は、「この間の自然災害の多発に火災保険の陳腐化を感じた。」というのである。

 

総合保険の成り立ち

 

保険商品を作る場合、「原因」「事故」「損害」に着目する。「原因」は突き詰めると「神の行為(Act of God))」「自分自身の故意・過失」「第三者の加害行為」の3つしかない。物保険は「神の行為」と「自分自身の故意・過失」に着目し、賠償責任保険は「第三者への加害行為」に着目して作られる大きな保険のカテゴリーだ。「損害」は、身体障害、財物損壊、経済損失の3つに区分される。利益・費用保険は経済損失という「損害」に着目して作られる保険である。

現実に販売されている保険商品に即してみると、多くの場合、保険は3つの要素のうち「事故」に着目して作られていることが分かる。消費者の理解のためにはそれが最も簡便だからだ。古くをいえば、海上保険、火災保険、盗難保険、硝子保険等、多くの保険がある。

では、総合保険は何に着目した保険なのだろうか。いうまでもなく、これも「事故」である。物保険であれば、ある保険の目的に生じる可能性のある「事故」を特定のものに限定することなく、総合的に捉えることで総合保険は成立している。

 

火災保険の陳腐化

 

火災保険の歴史は、火災という単一の事故を対象とした保険が、総合的な事故を対象とするようになったという事実に彩られている。火災保険は総合保険へと進化し続けたのである。特に、水災、風災(別途カバーする地震を含めて)といった自然災害をカバーする形での進化は、国民や企業からリスクを委ねられた損保業界が大いに自負するところであろう。

しかし、火災保険が総合保険に進化しても、もはや「陳腐化」しているというのである。その理由は「保険の目的」の捉え方にある。今の総合保険は火災保険から発展したために火災による「損害」の延長線上で構成されている。このため、水災の場合、門や塀等の付属設備の扱いに関して契約時の取り決めによるトラブルが生じることが多い。ましてや、水災で建物や家財とともに地面そのものが流されてしまったときに損害の全体をカバーすることができない。総合保険として、水災をカバーするためには、そもそもの「保険の目的」を根本から見直すことが必要になる。

 

火災保険の進化

 

保険会社のアンダーライティングを考えると、保険の目的の見直しは簡単に実現可能なことではない。しかし、保険の進化を考えるとき、そうした引受困難なリスクの処理のために免責金額の設定やフランチャイズ、縮小てん補等の保険技術が活用されてきた。巨大災害に関して、昔ながらの再保険に加えてキャットボンド等の新しいリスクヘッジも出てきている。

世界の中でもとりわけ自然災害による被害の頻度も損害額も大きい日本の損保業界にとって、「火災保険の進化」は、目の前にある大きな課題であるように感じられてならない。

 

日本損害保険代理業協会アドバイザー

アイエスネットワーク シニアフェロー

栗山 泰史