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保険の虫眼鏡(第52回)

 

「保険料保険」と「等級プロテクト」

 

今は昔、1980年代の終わりころまでの十数年間、現在でいう企業商品業務部に在籍していた。担当は賠償責任保険である。当時は、日本企業も今でいう「グローバル化」には程遠く、製品の輸出入を中心とした「国際化」の域に留まっていた。そこで、最も重要な課題となっていたのは輸出製品に関するPL保険であった。

 

航空保険における「保険料保険」

 

ある時、航空機の海外輸出の案件が出てきた。当初は、PL保険の枠組みでの引き受けを検討していたのだが、途中である人が「航空機のリスクなので航空保険なのではないか」と言い出した。調べてみるとそうなのである。そこで、航空保険に関して、自分として初めて深く調べる機会ができた。

おそらく今はもっと進化しており、内容も変化しているのだろうが、これがなかなか面白いのである。例えば、タイヤ一つとっても、航空機用タイヤとなるとPLリスクをカバーする場合、特殊な条項が付くのだ。航空機用タイヤに何らかの欠陥が見つかった場合、時には全世界の同じタイヤを装着した航空機が空を飛ぶことなく地上で待機することになる。それに伴う損失も特約で補償するのである。記憶に間違いがなければ「Grounding Liability Clause」という名称の条項だった。

中でも面白いと思ったのが「Premium Insurance(保険料保険)」である。エアラインが付ける保険は、毎年の事故状況や再保険のキャパシティによって、保険料が大きく変動する。下がればよいのだが上がった場合には不測の支出を余儀なくされる。それに保険を付けて備えるのである。保険の目的は保険料の増加額なのだ。航空保険のダイナミックな一面を感じるとともに、リスク・マネジメントの重要性と複雑性を改めて認識させられた。

 

自由化後の「等級プロテクト」

 

1998年の金融ビッグバンによる保険商品・料率の自由化によって、特に自動車保険の特約は多種多様になった。それが、後に保険金支払い漏れ事件につながっていくのだが、保険会社は価格競争を避けるためにも特約による補償の競争を選んだ。

このような状況の中で登場したのが「等級プロテクト」という特約であった。追加保険料を支払うことによって、事故による等級の悪化を食い止めるというのが、この特約の補償内容である。この特約が登場した際に「これは、保険料保険ではないか!」と大いに感心した。事故による保険料の増大分を「等級」に代えて保険化しているのである。企業分野においても特殊な保険である保険料保険を「個人分野に、それも自動車保険に持ち込むとは」というのが率直な驚きの理由である。新商品開発は、様々な形で行われるが、こうしたいわば「置換法」の重要性を改めて感じさせられたのである。

ただ、残念なことに、その後、「等級プロテクト」は損害率の悪化によって消えていくことになった。この辺りは、相対によって成り立つプロ同士の取引である企業契約とは大きく異なる個人契約の難しさといってよいだろう。ここにも、保険商品開発の難しさを垣間見ることができるのである。

 

日本損害保険代理業協会アドバイザー

アイエスネットワーク シニアフェロー

栗山 泰史