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保険の虫眼鏡(第53回)
内部管理態勢は経営者の責任
最近の金融庁の動きの中で、一つ重要な文書がある。それは、「コンプライアンス・リスク管理に関する検査・監督の考え方と進め方(コンプライアンス・リスク管理基本方針)」で、2018年7月13日に公表され、10月15日に確定している。これをよく読むと、代理店の内部管理がこれまでとは異なるレベルで実施されなければならないことが分かる。しかも、その責任は経営者に帰属する。
体制整備義務は7つの柱から成り立っている。①経営管理態勢、②法令等遵守態勢、③保険募集管理態勢、④顧客情報管理態勢、⑤顧客サポート等管理態勢、⑥外部委託先管理態勢、⑦内部管理態勢、この7つである。
このうち、内部管理態勢に限っては、一定程度の規模がなければ、そもそも態勢作りが難しいという問題をはらんでいる。実際、保険業法改正時のパブリック・コメントもこれに配慮し、「全ての保険募集人において、必ずしも独立した内部監査部門による監査が求められるものではありません。」としている。しかし、これに続けて「その場合にも、保険募集人の規模・特性に応じ、その態勢のあり方が十分に合理的で、かつ、実効性のあるものである必要があります。」とし、規模が小さいからといって何もしないでいることは許されないというスタンスを明確にしている。
保険業法改正時、金融庁のスタンスは、具体的には何も答えないというのが実際のところであろう。これが、「コンプライアンス・リスク管理基本方針」の確定によって踏み込んだ内容になったことに留意しなければならない。重要なポイントは以下の通りである。
<従来の内部管理態勢の問題点>
□形式的な法令違反のチェックに終始、表面的な再発防止策の策定等、ルールベースでの対応の積み重なり(「コンプラ疲れ」)
発生した個別問題に対する事後的な対応
経営の問題と切り離された、管理部門中心の局所的・部分的な対応
<改善の方向性(経営の問題であるとの認識の醸成)>
□経営陣において、ビジネスモデル・経営戦略・企業文化とコンプライアンスを表裏一体であるとの認識の下、経営目線での内部管理態勢を主導
<金融庁の今後の対応>
ルールベースではなく、経営の問題としての取組みを評価することを目的とした金融機関の経営陣との対話
重要な問題に焦点を当てた、リスクベースのモニタリング
大雑把な言い方をすると、従来は「経営者が内部管理態勢を担当者の問題と捉え、金融庁も細かなことまで検査していた」のを、今後は「細かなことは民間事業者に委ね、金融庁は経営者と対話する」という形になるということである。もし、「民間事業者は厳しい検査から解放されて楽になる」と捉えるのであれば、とんでもない間違いだ。結果はむしろ逆である。民間事業者が行う内部監査が、従来の金融庁並みの厳格なものにレベル・アップすることを要求されているのである。金融庁の代わりに民間が自ら「検査」を実施し、金融庁はそれができているかどうかを経営者との「対話」の中で確認するという形である。
今回の「コンプライアンス・リスク管理基本方針」の確定によって、内部管理のあり方が根本から変わることになる点に留意しなければならない。重要なことは、経営者の責任が何よりも先に問われることになった点である。
日本損害保険代理業協会アドバイザー
アイエスネットワーク シニアフェロー
栗山 泰史