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保険の虫眼鏡(第56回)

 

デジタル革命の下での保険事業

 

デジタル革命の進行によって、保険事業にはどのような変化が生じるのであろうか。今回は、これに関する序論である。

バンドリング、アンバンドリング、リバンドリングという言葉がある。金融、保険の世界でいえば、バンドリングとは、1から10までの業務を一気通貫でやって初めて、銀行、証券、保険会社は成り立つという考え方である。ところが、これに対し、業務を分解して、その一部だけを切り出して実施する事業者が出てくる。これをバンドリングに対してアンバンドリングという。そして、アンバンドリングによってバラバラになった業務が、別の形に再編成されるのがリバンドリングである。デジタル化の進展は、これを促進するというのだ。

 

しかし、よく原理を見てみると、アンバンドリングは保険業界においては古くからみられた現象である。保険会社は保険商品を作り、これを募集し、リスクを引き受け、その代わりにもらった保険料を運用し、財産を蓄えて事故が起こったときに保険金を払うという仕事をバンドリングで行っている。この一連の仕事の中で一つだけアンバンドリングされた業務がある。それが募集だ。

 

見込み客の発掘は保険会社にとって難しい業務である。そこで、明治12年に事業を開始した東京海上保険会社は自らが募集を行うのではなく三井物産を代理店にした。明治22年に事業を開始した東京火災保険会社は、地域の名士を代理店にした。以来、保険会社は、生保の営業職員チャネルのようなものを除いては募集を代理店に委託している。すなわち、保険事業においては、事業の開始当時から、募集に関しては、アンバンドリングしてきたのである。

 

モータリゼーションの進展の中で、自動車ディーラーなどの副業代理店が大きな存在感を示すようになるが、自動車ディーラーにとって保険代理業は副業とは決していえない大きな収益事業になっている。ここには、保険会社が自動車ディーラーを代理店にしたという側面があるのは事実であるが、自動車の販売事業者が保険の販売事業という異事業に積極的に進出してきたというもう一つの側面があることを忘れてはならない。

銀行も同様である。法律上、銀行は保険子会社を設立することができるにもにもかかわらず、バンドリングの形で保険事業に進出することなく、保険募集にのみ進出する道を選んでいる。銀行窓販は、銀行本体が保険事業のうち、販売事業のみに進出するというものである。

かつて損保子会社を保有していた生保会社が、損保会社との提携によって営業職員による損保商品の販売に乗り出したのも同じである。損保子会社によってバンドリングで実施していた損保業務をアンバンドリングした後に、損保販売事業のみを残したというものである。

 

こうした昔からのアンバンドリングとは異なり、今進行しているデジタル革命は、デジタル・トランスフォーメーション(DX)と称される全領域での大変革を引き起こし、昔からのやり方を革新的に破壊する(デジタル・ディスラプション)といわれている。これは、これまでの動きとは何が異なるのか。FinTechやInsurTechという言葉が世の中に浸透し始め、保険事業においては、テレマティクス自動車保険や健康増進型医療保険などにスポットライトが当たっているが、もう少し全体を見ながら整理しなければならないと感じるのである。次回以降、さらに論を進めていきたい。

 

日本損害保険代理業協会アドバイザー

アイエスネットワーク シニアフェロー

栗山 泰史