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保険の虫眼鏡(第59回)
「連続的価値創造」と「非連続的価値創造」
この連載の第54回以降、5回連続でデジタル革命を取り上げている。ここでもう一度、今という時代に保険事業に何が起こっているかを整理しておこう。
一橋大学教授の神岡太郎氏が、「デジタル化と価値創造」と題する論考を日経新聞「やさしい経済学」に投稿しておられた。その2018年12月12日に次の記述がある。
「一般的にも、デジタルの利活用においても、価値創造は連続的-非連続的の軸で考えることができます。(中略)既存のビジネスを改良することは連続的価値創造であり、過去の延長線上にないところでビジネス(価値)を生み出すことは非連続的価値創造です。」
まず、連続的価値創造についてみてみよう。この観点からみて、保険事業は、今、歴史的な大転換点にある。令和元年、すなわち2019年はどのような年なのか。
①保険自由化から「20年」
1996年の保険業法改正から23年
1998年の金融システム改革法から21年
②「70年」ぶりの保険募集制度改革
1948年の保険募集の取締りに関する法律(募取法)制定から71年
③「25年」ぶりの行政改革(金融庁による検査・監督改革)
1994年の行政手続法制定から25年
ちなみに、金融庁による検査・監督改革によって打ち出された方針がプリンシプル・ベースであり、これに基づく具体的方針が「顧客本位の業務運営の原則」である。
保険会社にとって、「連続的価値創造」に位置付けられる大きな変革は20年前の保険業法改正による保険自由化である。この結果、損保事業の場合、多数の会社が合併や統合によって集約され、今や3メガ損保の時代になり、AIG損保が外資として本格的に参入することになっている。また、3メガ損保のいずれもが海外にマーケットを求め、またSOMPOホールディングのように本格的に介護事業に乗り出している会社もある。保険会社の経営は、この20年の間に、かつての姿とは比べることができないほど大きく変化した。そして、今、25年ぶりの行政改革による「顧客本位の業務運営」が新しいステージを設けることになったのである。
一方、代理店はどうであろうか。20年前の保険自由化の際に、保険募集制度の改革は先送りされた。これが2016年の保険業法改正によって、70年ぶりに本格的な改正の時を迎えることになった。そして、それに覆いかぶさるように「顧客本位の業務運営」の下での代理店同士の競争が生じることになった。代理店の場合は、保険業法改正というルール・ベースの下での大変化と「顧客本位の業務運営」というプリンシプル・ベースの下での大変化が同時に生じている。いわば、二重苦のようなものである。代理店が覚悟しなければならない「連続的価値創造」の世界は、とんでもなく重いものなのである。
このような「連続的価値創造」の展開と並行して「非連続的価値創造」が急速に、かつ大々的に生じようとしている。これこそが、デジタライゼーション、デジタイゼーション、デジタルトランスフォーメイション(DX)といった言葉に表される大変化であり、InsurTechはこうした大変化の中の一部として位置付けられる「非連続的価値創造」の動きなのである。
日本損害保険代理業協会アドバイザー
アイエスネットワーク シニアフェロー
栗山 泰史