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保険の虫眼鏡(第60回)

 

InsurTechの新たな潮流

 

「保険の虫眼鏡」と題する連載を始めてから、今回で60回目を迎える。保険事業や保険商品に関して生じる様々な動きを、少し立ち止まって、虫眼鏡で観察するように丁寧にみてみれば、事の本質が見えてくるかもしれないというのがこの連載を始めた意図である。第一回は2016年4月で熊本地震の発生を受けて地震保険に関して記した。

当初は月2回の掲載であったが、今は月1回になっている。2018年7月に長年のご縁から、このメールマガジンの発行者であるアイエスネットワークのシニアフェローに就任した。その時、一緒にシニアフェローに就任された島田洋之氏が「保険システムよもやまばなし」を連載されることになり、月1回分について肩の荷を下ろすことができた次第だ。

 

RINGの会オープンセミナー

 

この間は、デジタル化をテーマに記している。先だって、7月6日にパシフィコ横浜で開催されたRINGの会オープンセミナーは今年で21回目。毎年、参加者数について記録を更新しているが、今回は1750名近くが集まることになった。今や、保険業界における年1回の大イベントといってもよいのではないだろうか。

今年のテーマは「脱保険業」。もちろん、「保険事業から脱して、他の事業を始めましょう」というわけではない。「これまで当たり前のことと考えてきた保険に関する常識や代理店としての仕事の仕方を見直し、それと決別するという観点が必要だ」というメッセージが込められている。そして、第一部のコーディネーターを筆者が務め、ここで取り上げたのが「デジタル革命」であった。

歴史に刻まれることが確実なデジタル革命というとんでもなく大きな変化の中では、保険そのものがなくなるかもしれない、もちろん保険会社も代理店もなくなるかもしれない。このような中で、特に代理店は「今、なにをすべきか」という点にスポットライトを当ててパネルディスカッションを進めた。その詳細は、「ダイヤモンド・オンライン」に「RINGの会オープンセミナーが『脱・保険業』をテーマに掲げた理由」と題する記事で上下の二回に分けて掲載されている。https://diamond.jp/articles/-/208670

 

InsurTechにおける新たな潮流

 

デジタル革命は世の中のすべてのことに大きな変革を迫っている。生活の時間の中では分かりにくいが、歴史の時間の中では確実に大きな変化が生じている。保険の世界においてもそれは同じだ。InsurTechと称される大きなうねりが、アンチテーゼを突きつける形で既存の業界に迫っている。ドイツのフレンドシュアランス、アメリカのレモネード、中国の衆安保険、日本のjustInCase、どれもこれも既存の保険を根本から変えるというメッセージを発しながら登場してきた。

ところが、足元のところで、変化が生じている。マッキンゼー・パートナー サイモン・ケイズラー氏(InsurTechを含むヨーロッパの全オンライン保険販売活動の統括)は次のように語っている。

「初期のInsurTech企業は『デジタルアタッカー』として、伝統的な保険業界を混乱させようとしていました。けれども現在は、彼らが生き残るためには既存の業界と協力する必要があることを認識しています。現在、既存の保険ビジネス全体を揺るがすInsurTech企業は10%未満であり、約3分の2がバリューチェーンの特定の部分に焦点を当て、既存の保険会社と有意義に統合したいと考えています。問題はもはや『InsurTech企業 vs 従来の保険会社』ではなく、顧客にとって本当の価値を生み出すためどのように協力し合うかということです。」 

このような変化の中で、特に代理店はどのようなデジタル戦略を描くべきなのであろうか。次回以降、ここに焦点を当てて論を進めていきたい。

 

日本損害保険代理業協会アドバイザー

アイエスネットワーク シニアフェロー

栗山 泰史