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保険の虫眼鏡(第63回)

 

賠償責任保険における地震免責 ― 大川小判決から

 

東日本大震災は多くの犠牲者を出した。中でも、宮城県石巻市立大川小学校の児童74名、教職員10名の犠牲は、辛く、悲しい記憶として残っている。筆者も震災から1年ほどが過ぎたころ、現地に赴いた。北上川がすぐ近くを流れている。津波は、北上川を河口から5キロもさかのぼり、小学校の屋根を越えたという。廃墟となった校舎が痛々しい姿を残し、その背後には山が迫っている。しかし、この山に避難する間もなく津波が襲ったのだ。

後日、児童23名の遺族が、市と県に損害賠償を求め、訴訟を起こした。これに対し、10月10日、最高裁第一小法廷は、震災前の学校側の防災対策が不十分だったとする二審・仙台高裁判決を支持し、約14億4千万円の賠償が確定した。朝日新聞の報道によれば、「津波被害をめぐっては、公共施設などの利用者が運営者を訴えた訴訟が複数あるが、事前対策の不備を指摘して賠償を命じた判決が確定するのは初めて。震災以降、学校の防災対策の改善は進められているが、事前の備えの必要性が自治体や教育現場に改めて求められることになる。」としている。

保険に携わる者としてこの判決をどのように捉えるべきであろうか。自治体の多くは民間の学校賠償責任保険に加入している。しかし、この保険は、地震を免責としている。直接の原因が「事前対策の不備」という学校側の過失であるとしても地震が事故原因に寄与している限り、保険上は免責なのである。

ちなみに、賠償責任保険において地震を免責とするのは世界中で一般的に行われていることではない。むしろ、地震のような天変地異においては賠償責任が発生することはあまりないとの認識があり、物保険とちがって賠償責任保険においては、地震を大きなリスクとして捉えないこともあるくらいだ。

もう一つ、気になることがある。今回の判決によって賠償金を支払うのは自治体である。議会での手続きに一定の困難はあるとしても支払いの原資に困ることはない。しかし、もし民間の学校であれば事情は異なってくる。賠償金の支払いによって破綻することもあり得るだろう。

民間の学校にとっては賠償金の負担は「外部不経済」(市場を通じて行われる経済活動の外側で発生する不利益が,個人,企業に悪い効果を与えること)に該当する。本来であれば、保険を付けることで備えるべきであるにも拘わらず、地震リスクであるがゆえになす術を失ってしまうのである。

わが国において、地震はいかなる保険においても絶対的に免責とする感覚があるが、少なくとも賠償責任保険においては、その見直しを検討してもよいのではないだろうか。

 

日本損害保険代理業協会アドバイザー

アイエスネットワーク シニアフェロー

栗山 泰史