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保険の虫眼鏡(第67回)

 

「リスク区分」には深い意味がある

 

 唐突だが、分類上、ヒトは「動物(界)脊索動物(門)哺乳(綱)サル(目)ヒト(科)ヒト(属)ヒト(sapiens)(種)」ということになるらしい。保険業界というが、これは「界」という分類である。何気なく使っている言葉に保険種類とか保険種目というのがある。これも「類」、「目」という分類である。

では、生命保険は保険種類なのか、保険種目なのか。損害保険はどうか。火災保険は、住宅総合保険は・・・。今は少し様相が違っているが、1996年の保険業法の改正前、生命保険は「類」であった。この下に、終身保険や養老保険、定期保険などの様々な生命保険があるが、これらはすべて「目」である。同じく火災保険は「類」であり、住宅総合保険等は「目」だ。

 

生命保険に対比される言葉だが、損害保険はどうだったか。昔の保険業法において、損害保険という保険種類はなかったのである。生命保険に対する保険種類としては、海上保険、火災保険、自動車保険、傷害保険から費用利益保険に至るまで27の保険種類が存在した。

業法において主要な営業保険種類を社名に入れることになっていたので、かつて「〇〇海上火災」とか「〇〇火災海上」という社名が一般的になった。そして、時代の流れとともに主要な種類が変わることで「セゾン自動車火災」や「ジェイアイ傷害火災」といった社名が登場した。

現在、社名に「損害保険」を冠している会社があるのは、1996年の保険業法改正によって、損害保険が法律に明記されたからである。それまでは、損害保険は27の保険種類の総称にすぎなかった。いずれにしても、保険種類という分類では、生命保険が1種類しかないのに、損害保険は27種類もあり、いかに損害保険が多種多様なリスクをカバーしているかが表れているのである。

 

では、なぜ、このような分類が必要なのであろうか。言うまでもないが、大数の法則を成り立たせるためである。例えば、自動車のリスクと火災のリスクを混ぜ合わせて保険を作ったとすれば、誰しもそれに信頼感を抱くことはないだろう。それぞれリスクが根本から異なるから、自ずとリスクに応じた約款の下で同種のデータを集めて料率計算をすることが必要になる。

しかし、それだけで十分かというとそうではない。同じような火災事故でも住宅と工場ではリスクが大きく異なる。そこで登場するのが「リスク区分」である。保険種目の下での細かな分類である。これを大きく区分するか、小さく区分するかで大げさに言えば政策的な効果が全く異なってくる。

大きな区分にすれば、リスクの大きいものと小さいものが混在するから相互扶助性が高まる。郵便料金のように隣の家でも離島でも封書であれば84円というのと同じである。一方、相互扶助性が高まれば、リスクの小さい人に不満が溜まってくる。自分のリスクに見合った保険料しか払いたくないというわけである。そうなるとリスク区分を細分化する必要が出てくる。難しく言うと、「衡平性(equity)」と「効率性(efficiency)」が対立することになるのである。時代の流れは、「衡平性」よりも「効率性」に傾いているように感じられる。

 

そういう状況を反映して、今、スポットライトが当たっているのが「リスクの低い人だけで集まって仲間内で保険を作ろう」という考え方に基づく「P2P(ピア・トゥ・ピア)保険」である。InsurTechの下で最初に登場したドイツのフレンドシュアランスというのが先駆けで、アメリカのレモネード、中国の衆安保険など、どれもこれも既存の保険を根本から変えるというメッセージを発しながら登場してきた。わが国でも、最近、話題になっているjustInCaseの「わりかん保険」はその流れに位置する保険である。

ちなみに、テレマティクス自動車保険や健康増進型医療保険も基本的なところは同じ発想であるが、料率体系において「衡平性」への配慮がある点でP2P保険に位置づけるべきかどうかは悩むところである。

こうした保険の細分化が、一直線に保険の進化といえるかどうか、その答えはなかなか見出しにくい。ある人のリスクが今は小さくても、例えば高齢化のように、時間の流れの中では大きくなるというのはよくあることだ。現時点での損得だけでなく時間軸を意識したかじ取りが必要になる。うまくいかなければ、まるで、蟻とキリギリスの逸話のような展開もあり得るのである。

 

日本損害保険代理業協会アドバイザー

アイエスネットワーク シニアフェロー

栗山 泰史