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保険の虫眼鏡(第70回)

 

非対面募集で空いた「小さな穴」の行方

 

少し前のことですが、日経新聞5月1日朝刊に、大手生保が非対面の募集活動を容認するとの記事が掲載されました。内容は次の通りです。

「大手生命保険が顧客と直接対面しない営業に踏み切る。明治安田生命保険はまず既存の契約者や家族を対象に、医療保険の加入や契約変更の手続きが郵送や電話で済むようにする。新型コロナウイルスの感染拡大を受けた外出自粛により、生保レディーと呼ばれる営業職員が直接会うことが難しいため。業界で23万人に達する営業職員が対面で関係を築く販売スタイルが見直しを迫られた。」

 

 なんだか変だと感じませんか?

損保の場合は、日米保険協議を受けて、20年以上前から電話やネットでの非対面募集が行われてきました。代理店が電話で募集するのも日常茶飯事です。生保においても、第三分野の疾病保険などは同様ですし、ライフネット生命は第一分野といわれる普通の生命保険もネットで募集しています。しかし、大手生保は、営業職員に対面の募集しか認めていなかったんです。そのため、なんと、「郵送や電話で済むようにする」ということが日経新聞のニュースになるんです。

 

なぜ、こんなことが起こるのでしょうか。一般論として保険会社は、契約者の危険度を評価した上で加入の是非を決定することが必要です。そのために、「第一次選択」とよばれる情報取得を募集人に求めています。特に、生命保険や第三分野保険の場合、具体的方法として募集人による保険契約者への訪問・面接を求めてきました。これは、架空契約や保険金詐取を目的とする契約等の不正な保険契約の発生を防止することにも役立つとされています。

しかし、これが金融庁の定めるルールかというとそうではありません。金融庁の監督指針では「保険募集人の訪問や保険会社が電話等の通信機器・情報処理機器を利用し保険契約者と交信することによる確認、その他適切な方法」が必要と記されています。「訪問」とは書いてありますが、これに限定されているわけではありません。「電話」だけでなく「デジタル面談」も認めているんです。ということは、対面をルールとして定めているのは保険会社なんです。その表向きの理由は「第一次選択」ですが、実際にもっと大きな理由は、お客さまとの対面によるコミュニケーション作りを促進することにあるのでしょう。

 

今、デジタル革命の真っ盛りです。かつてのイギリスで起こった産業革命のような歴史的な大変化が起こりつつある時代です。デジタルの力によってあらゆることがとんでもなく大きく変わろうとしています。コミュニケーション作り一つとっても対面よりもデジタルの方が有効な局面も出てきています。

コロナ禍によって、否応なく始まった非対面募集ですが、一度始まってしまえば、もう止めることはできません。しかも、電話や郵送といったあまりにも前時代的なやり方がこれからの時代に通用するはずがありません。もしかすると、営業職員は大手生保の社員ですが、その中にもデジタル技術をフル活用して新しい募集活動を始める人が出てくるかもしれません。むしろ、そういう人が出てこなければ、営業職員チャネル自体が時代の流れに取り残されるかもしれません。

 

企業代理店はどうでしょうか。これまで、構成員契約規制によって、グループ会社社員に対し、第一分野の生命保険は募集ができませんでした。確かに丁寧な募集という点で、営業職員に比べて企業代理店の対応にラフな面があるのは事実かもしれません。そのため、構成員契約規制の根拠になっている圧力募集を疑われることになるのかもしれません。しかし、デジタルによる募集が最先端の形で展開されればどうでしょうか。もしかすると、営業職員以上にきめ細かな対応が可能になるかもしれません。

構成員契約規制については、長い歴史にもかかわる問題がありますから、決して軽々しく意見を言うことはできないと思っています。しかし、デジタル革命の進展によって、企業代理店にとっては、構成員契約規制の是非に関し、従来とは異なる論点での議論ができるような気がします。コロナ禍によって空いた「蟻の一穴」のような小さな穴は、デジタル革命というとんでもない大きな後押しを受けて、構成員契約規制を動かす大きな穴になるのかもしれません。

 

しかし、そのためには、企業代理店自身がデジタルトランスフォーメーション(DX)を真正面から見据えたデジタル戦略を構築しなければならないと感じられます。具体的な中身がなければ何も始まらないほど、構成員契約規制は深くて重い世界を抱えています。

 

日本損害保険代理業協会アドバイザー

アイエスネットワーク シニアフェロー

栗山 泰史