保険の虫眼鏡(第112回)
企業代理店の今後・・・有識者会議報告書を受けて

 日米保険協議について、過去11回書き続けてきました。このテーマはもう少
し続く予定ですが、今回は、これから離れたいと思います。
6月25日に、金融庁は『「損害保険業の構造的課題と競争のあり方に関する有
識者会議」報告書』(以下「報告書」)を公表しました。このメルマガの読者
には企業代理店の関係者が多く、この報告書は企業代理店の今後に非常に大き
な影響を与えます。企業代理店としてこれをどう読むべきか、今回は、この観
点で記したいと思います。

「算定会制度」がもたらしたもの

 すべての始まりは、1948年(昭和23年)の「損害保険料率算出団体に関する
法律(料団法)」の制定でした。これは1951年(昭和26年)の改正によって、
火災保険、傷害保険、自動車保険の約款と料率に関し、すべての損保会社が同
一のものを使用する義務を課しました。これは個人分野だけではなく企業分野
の保険においても同じでした。この国で営業するすべての損保会社が、すべて
の保険契約者に対して、同じ約款、同じ料率、同じ規定を使用するという「算
定会制度」がこの時、出来上がりました。
 三つの主要な保険に関して、約款と料率の使用義務が課せられたということ
は、損保会社間の保険商品を巡る競争において、商品の内容と価格での競争を
排除したことを意味します。商品の内容と価格による競争が排除された時、私
企業は何をベースに競争すればよいのでしょうか。問題となっている政策株や
本業協力(便宜供与)などの「歪んだ競争」の原点は「算定会制度」だといっ
てよいでしょう。これは、ビッグモーター事件においても同じです。
 ただし、このように記すと、いかにも行政にそれを強いられたかのような
ニュアンスですが、決してそうではありません。むしろ、長い歴史の中で、激
しい料率競争を繰り返すことで苦境に陥ることが多かった業界自身が強く望ん
だものを行政が受け入れたのに近いというべきです。

企業代理店の続出

 企業代理店とは何かを考える時、一つ不思議なことがあります。わが国では、
大企業はもとより中堅以上の企業の多くが企業代理店を保有しています。保険
代理店は「保険販売事業」の担い手であり、企業がグループ内に子会社として
これを設けるということは「新事業への進出」であったはずです。なぜ、こん
なにも多くの企業が「保険販売事業」に進出しているのでしょうか。しかも
「選択と集中」の時代に、なぜ、そのスピンアウトが検討されないのでしょう
か。
 普通の保険代理店に代わって企業代理店が登場し、これがグループ企業とし
て当該企業の契約を扱うようになった背景には「算定会制度」の存在がありま
した。保険会社が契約者である企業に「企業代理店」を創設するよう提案する
ようになったからです。その理由は、企業が保険代理店をグループ内に作るこ
とで、事実上、代理店手数料分の割引効果が生まれるからです。
 そして、企業代理店創設の動きは、保険会社間の競争の中で一層加速するこ
とになりました。他社の普通の保険代理店が扱う企業に企業代理店の創設を提
案することで契約を奪うことが典型ですが、同時に保険会社の営業社員が新た
に作られた企業代理店の業務の「手伝い」をどれだけ多くできるかが競争の具
になりました。そして、現在、問題として指摘されている保険会社からの出向
者の派遣や退職者の活用といった「手伝い」の形も出てきました。これらは、
形態によって、実質的に保険料割引の効果を有し、厳密に言えば「特別利益の
提供」に近いかもしれません。

非自立の企業代理店のこれから

 企業代理店が続々と登場した背景には「算定会制度」がありました。もちろ
ん、当初から数えれば70年以上も経過しますし、もっと昔から代理店であった
ところもありますから(東京海上設立時の第一号代理店は三井物産です)、立
派に自立した企業代理店が多く存在します。しかし、その一方で、いつまで
経っても保険会社の営業社員に依存する非自立の企業代理店が一定割合、存在
するのも事実です。こうした非自立の企業代理店の最大の弊害は、本体企業の
保険を含む適切なリスクマネジメントの妨げになることです。もしこれがいな
ければ、企業は商社系や銀行系のような自立した企業代理店、または保険ブ
ローカーを活用するはずです。今や、リスクマネジメントは会社法においても
重要な位置づけを与えられ、企業の死命を制する大きな課題になっています。
 そこで、「報告書」においても、非自立の企業代理店を淘汰するために、
「自己・特定契約比率規制」をルールベースで厳格化する旨が、以下の通り記
載されています。
 「具体的には、比率の計算にあたって、一部の保険代理店の対象保険種目等
を限定する経過措置については、(中略)一定の準備期間を確保した上で、早
急に撤廃するべきである。また、特定契約比率規制の対象となる「特定者」の
対象範囲についても、企業内代理店の実態把握を早急に進め、その影響を分析
した上で、例えば、連結決算の対象となるグループ企業の範囲全体へ拡大する
など、そのあり方を検討すべきである。」
 「自己・特定契約比率規制」の見直しの結果、この規制に該当する企業代理
店は、廃業や他の代理店に吸収される道を選ぶしかありません。

保険ブローカーをどう捉えるか

 「報告書」では、保険ブローカーについて、「企業向け保険市場の更なる発
展を図る観点から、保険仲立人の活用を促進するための施策もあわせて検討を
続けるべきである。」と、あっさりとしか触れていません。保険ブローカーに
関する現在のルールは非常に厳格であるため、活用を促進するためにはルール
を変えることが必要であり、そのためには保険業法の改正を伴うことになりま
す。
 一足飛びに保険ブローカーが企業代理店に取って代わるかというと決してそ
んなことにはならないと筆者は考えています。企業代理店と保険ブローカーと
の比較を行う場合、保険会社の営業社員の存在に着目することが必要です。営
業社員の存在とそのプレゼンスの高さはわが国損保業界に特有のものです。営
業社員は企業代理店をバックアップしますが、企業代理店が乗合代理店であれ
ば、他社の営業社員との競争に勝つことを求められます。
 さらに、営業社員自身が企業本体に出入りしてリスクマネジメントを含む保
険に関するアドバイザーの役割を果たすことがあります。その際には、保険会
社が保有するリスクマネジメント会社の活用など保険会社の組織全体が営業社
員をバックアップします。企業が複数の保険会社と取引していれば、企業本体
での営業社員同士の激烈な競争が繰り広げられます。営業社員は競争に勝つた
めに、担当する企業の側に立って保険会社の本社部門と必死に交渉して「良い
条件」を引き出そうとします。
 ただし、保険ブローカーが保険契約者の代理人であるのに対し、営業社員は
保険会社の社員であり、複数保険会社の比較推奨ができないという限界があり
ます。しかし、この限界については乗合代理店である企業代理店が補うことが
できます。企業代理店が高い業務能力を獲得し、各社の営業社員を使いこなす
真の意味での比較推奨販売を行う乗合代理店としての態勢を構築すれば、決し
て保険ブローカーに負けることはないはずです。
 「報告書」において、企業代理店は保険会社の代理店である一方で、親会社
との間に深い関係があり、「立場が不明確」と指摘されています。しかし、比
較推奨販売を行う乗合代理店としての動きに徹し、保険会社の営業社員をフル
活用することになれば、保険会社の代理店という立場と資本系列としては企業
の側に属するという立場がうまく融合し、企業のリスクマネジメント全体に資
する役割を果たすことができるはずです。すなわち、欧米における保険ブロー
カーの役割を、わが国においては営業社員と企業代理店がペアになって担うこ
とが可能なわけです。
 もしかすると、これからは保険ブローカーの時代だということで、これへの
転身や子会社としてこれを設立しようとの検討を行っている企業代理店がある
かもしれません。そのこと自体をとんでもないこととは決して思いません。し
かし、それ以上に重要なことは、比較推奨販売を行う乗合代理店として保険会
社の営業社員の能力をフルに引き出すことができるかどうかなのではないで
しょうか。

日本損害保険代理業協会 アドバイザー
アイエスネットワーク シニアフェロー
栗山 泰史