Find Your Compass(第9回)
「脆弱」に対置する言葉はなに?

※前回のメルマガで、JR各社による「みどりの窓口」大幅削減による窓口の
 混乱について触れましたが、同じ思いの利用者の方が多数おられたのでしょ
 う。苦情が殺到したようで、JR東では当面は現在の数を維持し、繁忙期は臨
 時窓口の開設も検討するそうです。
 ちょっと考えたら分かりそうなものなのに・・・とは思うのですが、利用者
 の声を踏まえて方針を見直したこと自体は、先ずは良かったと思います。

ブラック・スワン
 起こりえないと思われたことが急に起こることをブラック・スワンといいま
す。この30年の間だけ振り返っても、日本に強い衝撃と大きな影響を及ぼした
ブラック・スワン級の事象が立て続けに起きています。
 バブル経済の崩壊(1992年~)、阪神淡路大震災(1995年)、同時多発テロ
(2001年)、リーマンショック(2008年)、東日本大震災(2011年)、コロナ
・ショック(2020年~)、ロシアのウクライナ侵攻(2022年~)、イスラエル
のガザ侵攻(2023年~)、能登半島地震(2024年)など・・・ある程度予見で
きたとしても、リスクの予測が過去のデータに基づくものである以上、正確さ
は期待できません。実際に、想定していなかった事象がいくつも起こっていま
す。
 こうした現実を前にすると、人も企業も安定した状態が長く続くことを前提
にするのではなく、悪影響が起こることを予め織り込むことが必要ではないか
と感じます。

「反脆弱性」という概念
 普通私たちは、外圧などによってすぐに壊れたり、調子が悪くなることを
「脆弱」と形容します。企業であれば環境変化による廃業や業績悪化の場合で
あり、外部からの衝撃に対して「弱くて脆い(もろい)」ことを表しています。
では、それに対置される言葉は何でしょう?
 直ぐに浮かぶのは「頑健・強靭・頑強」という言葉ですね。ガラスのコップ
は落とすと割れるから「脆い」けど、金属のコップは割れないから「頑強」と
いう感じです。
 でも、本当にそうなのか、と考えたのがナシーム・ニコラス・タレブ※とい
う人です。(※1960~レバノン出身の認識論者・作家。金融デリバティブの専
門家でウオール街でトレーダー経験もあり)
 タレブは、非常に予測が難しい時代に生きる我々は、リスクを測るのではな
く、「脆さ」を測って、解決策につなげることが重要だと指摘し、「外圧の高
まりによってパフォーマンスが低下する性質=虚弱性」に対置すべきなのは
「外圧の高まりによってかえってパフォーマンスが向上する性質」であるとし、
それを「反虚弱性」と名付けました。
 「反虚弱性」とは、“虚弱ではないこと、でも頑強でもないこと”、という
意味です。すなわち、急激な変化を受けた結果、下降線を辿って衰えるのは
「虚弱」=「変動に弱い」、そのままの状態を維持するのが「頑強」=「変動
に動じない」ですが、かえってパフォーマンスが高まり、上に向かうのが「反
虚弱性」=「変動に強い」→「衝撃を糧にして成長する」ということになりま
す。

不確実性を受け入れる
 私たちは通常、物事を進める際には、確実性を高め、不確実性をなくそうと
します。でも現実にはそれは不可能です。プロジェクト・マネジメントの場合
だと、最初にガチガチに細かく計画を立てると、何か一つでも予想外のことが
起きると詰まってしまうみたいなことになります。
 従って、不確実性をなくすために膨大なエネルギーを注ぎ込むよりも、むし
ろ不確実性を受け入れて柔軟に対応できるようにしておくことが「反虚弱性」
を高めることにつながります。
 人でいえば、有名大学を優秀な成績で卒業するとか、つぶれそうもないよう
な大企業に就職するとかといったことは、今の社会では強みとされています。
それらは社会システムが正常に機能している状態を前提にして成り立ちますが、
このシステムが崩れたらどうなるでしょうか。
 車と自転車の比較はどうでしょう。通常は車のほうが「頑強」です。でも、
大震災で道路が通行止めになれば車は使えませんが、自転車は移動を可能にし
ます。
 今までの常識で未来を判断して「強く」しても、この予測不可能な社会では
役に立たない。むしろ変化や外的なストレスを味方につけて自己再生できる仕
組みの方が重要だとするタレブの主張は、リスク管理へのアプローチの観点で
非常に示唆に富むのではないかと感じます。

「反虚弱性」を織り込む
 では、どうすれば人や組織の中に「反虚弱性」を織り込むことができるので
しょうか。
 人でいえば、人的資本(スキルや能力)や社会資本(人脈や信頼)を、所属
する組織を離れても残せるようにするということになります。従って、「個」
の力を磨くとともに、自身に帰属するネットワークを広げておくことが「反虚
弱性」を高めることにつながります。
 例えば読書です。本は古くから世界中の人たちが実際に経験したことなどを
言葉にしたものであり、私たちはそれを読むことで追体験できます。自分を広
く深く掘り下げて思考の多様性や想像力を磨くことで、危機を糧にして成長す
ることも可能になります。また、副業を行って世界を広げながら個の信用を蓄
積することも「反虚弱性」を高めることにつながります。
 組織でいえば、ある種の不安定さを織り込むことになりますので、人材の多
様性を進めることなどが挙げられます。メンバーシップ型雇用にジョブ型を加
えることなども同じです。
 経営でいえば、いわゆる「バーベル戦略」が考えられます。バーベルの棒の
部分は徹底した安全策をとりながら、残りの重りの部分でリスクをとってチャ
レンジすることなどです。
 ここでは十分に例示できませんが、人や組織、経営に「反虚弱性」を織り込
むということは、これまでイメージしていた「強さ」に代表される成功モデル
を書き換えていくことにつながります。少し難しい概念ですが、変化の時代に
は一考の余地があるように感じています。

Hands-Onコンサルティング 
野元敏昭