Find Your Compass(第8回)
「みどりの窓口」とお客さま本位

「みどりの窓口」は大混雑
 4月1日のとある都内JRの駅、大行列ができているので何かなと思って先頭
をみると、そこは「みどりの窓口」(以下、「窓口」)でした。新年度になっ
て定期券を買い求める大勢の人たちの行列だったのです。
 JR各社は2025年までに「窓口」の7割を減らす方針で削減を進めていますが、
そのあおりを受けて特定の駅に利用者が集中し、大混雑になっていたのです。
 私自身、「窓口」の混雑には困っている一人です。JRも混雑は認識している
のでしょう。待合室には駅員がいて、セルフで発券できるものは「指定席券売
機(以下、「券売機」)」に誘導したりして捌いています。大変丁寧に、親切
に対応されているのですが、それだったらカウンターに入って処理してくれた
方が早くないかな・・・などと考えてしまいます。

「券売機」は複雑なニーズには応えてくれない
 JRとしては“一々窓口に並ばないでも「券売機」が利用できますよ、オンラ
インのシステムもありますよ”ということでしょう。私自身もできるなら「窓
口」には行きたくありません。でも利用目的によっては「券売機」が使えない
ケースがあるのです。例えば「大人の休日倶楽部」ジパング。65歳以上が利用
でき、乗車券等が3割引になるJR東の会員制度で、私も利用していますが、
「券売機」では割引切符は買えないので「窓口」に並ぶしかないのです。
 旅行が好きな高齢者の多くがジパングを利用しており、また、総じて高齢者
は機械操作やオンライン対応が苦手ですから、平日でも「窓口」は混雑してい
るわけです。
 他にも事前購入したチケットの日程や行程の変更とか、新幹線とローカル線
や私鉄を乗り継ぎながらJRで戻ってくるような複雑なケースへの対応も簡単で
はありません。(私の認識不足があればご指摘いただきたいのですが、いずれ
にしてもちょっと複雑になると簡単には操作できないのです)
 最近は「話せる指定席券売機」(オペレーターと会話をしながら切符が買え
る)も登場しています。でも、そもそも順番待ちですし、やっと順番が来ても
今度はオペ―レーターにつながるまで、動かない画面をみながらジッと待たな
ければなりません。後ろの人の冷たい視線も感じます。

利用者に使いにくい駅
 こうした実態にインバウンドの増加も加わって、「窓口」の混雑に拍車をか
けている状況です。利用者の中には明らかにイラついている人がいますし、駅
員に大声で苦情を言ったりしている人もいます。“いい大人なんだから、この
くらいのことで大声なんか出すなよ”、とも思いますが、ただでさえ鉄道ハラ
スメントが横行する中、クレームが出やすい環境を自ら作り出しているように
も思えてしまいます。
 JR各社は熱心にインバウンドを呼び込み、高齢者向けの旅行商品を大量に出
しています。その一方で、「窓口」の大幅減だけではなく、駅の時刻表や時計、
案内板、さらにはゴミ箱なども次々に撤去、削減しています。
 駅や路線自体が無くなっている地域の方の不便さとは比較になりませんが、
こうした一連の対応は、自社の収益拡大や効率化が優先しているようで、必ず
しも利用者目線とは言えないのではないでしょうか。

デジタル化は手段、目的はCXの向上
 「券売機」によって簡単・便利になったことは事実です。オンラインによっ
てスマホから操作できることも増えました。それでもJRの取り組みには、もと
もと国鉄民営化が目指した利用者サービスの向上、お客さま本位の視点が少し
不足しているように感じてしまいます。
 デジタル化やDXはあくまでも手段であり、目的はCXの向上※のはずです。
「券売機」の機能と使い勝手の充実やデジタル完結を進めないまま、「窓口」
だけ削減するのは順番が逆ではないかと感じてしまいます。
(※ 商品、サービスの購入、利用、アフターフォローの全体を通して
ユーザーが得られる優れた体験や満足感のこと、また、その質を高めること)

他山の石とする
 現場の駅員の方は一息つく間もなく対応に追われているのですが、「窓口」
の削減による混雑の拡大に対しては利用者からの苦情も相当あるようです。苦
情を受け、罵倒されるのは日々頑張っている駅員であり、そうした光景を見る
たびに気の毒になります。「効率化」のツケが現場に回っている感じもします。
 大袈裟かもしれませんが、このままでは利用者の立場に共感できて使命感の
ある駅員の方がやる気を殺がれたり、心を病んでしまうことも懸念されると言
ったら言い過ぎでしょうか。
 現場で働く人たちが人のために活き活きと仕事ができる環境でないと、真の
お客さま本位は実現しません。デジタル化にしろDXにしろ、手段が目的化しな
いように願うばかりですし、従業員の働く環境を整えることの重要性も改めて
確認したいところです。
 そして、この点は保険業界にも全く同じことがいえるのではないかと思いま
す。
 JRの「窓口」の混雑を「対岸の火事」とせず、「他山の石」とし、業務運営
全般を通して、常に「お客さまの視点」と「従業員の視点」で自己検証するこ
とが必要ではないかと感じています。

以上
Hands-Onコンサルティング
野元敏昭