保険システムよもやまばなし(第70回)
「生成AI」の普及、新たな課題の登場

昨年の今頃、当時一気に話題になった「ChatGPT」についてお伝えしました。
今回はその後の「生成AI」の状況に焦点を当てます。

【「生成AI専用保険」登場】 
2024年3月、国内初の「生成AI専用保険」が登場しました。この保険は、急
速に利用が拡大している「生成AI」の安全かつ安心な導入と活用を促進し、
導入に際しての企業の不安を解消することを目的に開発・提供されました。
開発の背景として、「生成AI」を次のように捉えています。
 ①データの解析と学習を通じて新たなコンテンツを生成する革新的な技術
 ②世界中で利用が拡大し、日本においても大手企業を中心に導入が加速中
 ③業務効率化を促進し、新たなイノベーションが期待される
 ④一方、権利侵害や情報漏洩、正確性に関するリスクも存在する
この保険の売れ行きについては不明ですが、「宇宙旅行保険」よりは身近に
感じられます。

【損害保険会社での「生成AI」活用】
保険マーケットにもなり得るように、多くの企業で「生成AI」の活用が進んで
います。最近の損害保険会社での活用状況について確認してみます。
●損保ジャパン:2024年3月14日に「「SOMPO AI Chat」全社展開」といった
ニュースがネットに掲載されました。(2024年3月14日)文書作成や情報検索、
議事録・レポートの要約など社員の日々の業務を支援するものです。
この種の社員向け業務支援型「生成AI」活用は昨年から始まっています。
●三井住友:「MS-Assistant」全社員活用開始(2023年7月14日)
損害保険業務の専門的な照会応答機能追加(2023年12月14日)
●東京海上日動:「One-AI for Tokio Marine」活用開始(2023年10月12日)
保険に特化した対話型AI開発中、2024年度中に全社員活用を目指す

現在は、代理店や顧客関連業務における「生成AI」の活用、リスク分析や商品
開発、損害把握、不正請求対策など、より専門性の高い業務への適用が進んで
います。電動アシストならぬ電脳アシストの活用を進めているようです。損害
保険各社がさらにどのような活用を進めていくのか、今後の展開が楽しみです。

【「生成AI」普及による国家的課題】
革新的な「生成AI」技術の進化と活用推進により、新たなイノベーションが期
待されますが、同時に新たな課題も浮かび上がって来ています。以前にお伝え
したセキュリティの脆弱性や、人間からAIシフトといった雇用の課題もありま
すが、最近、新聞紙上を騒がせているのは、「半導体」、「データセンター」、
「電力」など、デジタル社会を支える重要基盤(デジタルインフラ)に関わる
課題です。

「生成AI」の開発には膨大なデータの学習が必要であり、運用時には文章や画
像を生成するには大規模な計算能力が不可欠です。これには、大規模データセ
ンターと、高性能な半導体、さらには半導体開発やセンター稼働のための電力
が必要になります。

一方、脱炭素社会の実現に向けて、カーボンニュートラルや
GX(Green Transformation)の取組が重要となります。そのため、これまでの
技術の延長線で解決を図ることは出来ず、「次世代グリーンパワー半導体」や
「次世代グリーンデータセンター」、「ゼロエミッション電源」の確保が急務
となっています。海外からの「データセンター構築」や「半導体工場設置」の
動きも活発になりつつあります。これらの背景から、人口減少が進む日本国内
でも、2050年には電力消費が2021年比で4割増加といった予測もあります。
このような事態に備えて、電力の安定供給に向けた国家的・長期的な取組が求
められています。

「生成AI」技術の登場が、こういった国家的な取組にまで影響を及ぼすとは、
まさに「バタフライ効果」(注)が目の前で起きているような感じすらします。
さて、これからどのようになっていくのか、どのような世界が待ち受けている
のか、楽しみでもあります
(注)ブラジルの1匹の蝶の羽ばたきはテキサスで竜巻を引き起こす?

K System Planning
島田洋之