Find Your Compass(第7回)
お客さまアンケート

お客さまアンケートで知りたいのは「情報」である
 保険代理店(以下、代理店)としての基本的な使命は、「お客さまに満足し
ていただけるサービスを提供すること」です。そのためには、どのようなサー
ビスを提供すればお客さまに満足していただけるか知ることが重要です。起点
になるのは「お客さまからの評価や声」であり、それらを定期的に収集・分析
し、経営に反映することが必要です。
 今では多くの代理店で「お客さまアンケート」が実施されています。これ自
体は(回答率の低さは別問題として)大事なことですが、その大部分は「お客
さま満足度」の把握に留まっているのではないでしょうか。(例えば、今年の
調査では78%のお客さまが満足と回答し、昨年より2ポイント上がった…など)
 これは、結果としての数値を知るための市場調査=現状把握にすぎません。
本当に必要なのは行動、すなわち代理店としてとるべき戦略につながる「情報」
です。例えば、満足度が75%なら、何をすれば80%や90%に高めることができ
るかを知ることです。
 折角お客さまアンケートを実施していても、それが単なる市場調査に留まっ
ているために有効活用されていないケースが多いようです。改めて、具体的な
行動につなげるために必要な「情報」(お客さまの満足度を高める要因・逆に
下げる原因)を把握できる仕組みになっているか、確認いただくことが必要だ
と感じています。

情報を把握するために有効な「回帰分析」
 お客さま満足度の規定要因が分かれば、具体的な行動につながるわけですが、
この場合に有効なのが「回帰分析」の手法です。これは因果関係を分析する代
表的な予測モデルですからご存じの方も多いと思いますが、原因に相当する変
数(専門的には説明変数と呼ばれます)からある結果(目的変数)を予測する
ものです。
 代理店の場合で言えば、「代理店の専門性」に対するお客さまの評価が上が
ると「満足度」は高まる、あるいは、「代理店の接客態度」への評価が上がる
と「満足度」が高まる、と仮定して必要な情報を探る取り組みになります。
 この場合、一つの説明変数で一つの目的変数を予測するものを「単回帰分析」
といい、複数の説明変数で目的変数を予測するものを「重回帰分析」といいま
す。一般的には「重回帰分析」の方が予測精度は高まると言われています。

お客さま満足度を調べる尺度
 回帰分析の手法を利用してお客さま満足度調査を行うためには、お客さまの
主観的な評価である満足度を「数値化」する必要があります。
どのようなスケールで測ることが有効か見てみましょう。
□ 3段階(3満足 2どちらでもない 1不満)
□ 4段階(4満足 3やや満足 2やや不満 1不満)
→ 上記2つは段階が少なすぎて数値データとして扱うには無理があるとされ
  ています。
□ 5段階(5満足 4やや満足 3どちらでもない 2やや不満 1不満)
→ 数値データとして分析可能とされていて実際に多く利用されています。た
  だし、3が選ばれやすく、「中立化傾向」が起こりやすいことが指摘され
  ています。日本人は諸外国に比べて中立化傾向が強いと言われていますの
  で留意する必要があります。
□ 6段階
  (6とても満足 5満足 4やや満足 3やや不満 2不満 1とても不満)
→ 「どちらでもない」がないので満足か不満かを区分したいときに有効とさ
  れています。一方で、6と5の差は1で4と3の差も1ですが、後者の間
  隔の方が広いことが想定されるため、数値分析の前提の「等間隔性」が仮
  定しにくいとされています。
□ 7段階
  (上記6段階の4と3の間に「どちらでもない」という選択肢を追加)
→ 数値データとして分析可能とされています。中立化傾向も緩和でき、数値
  の等間隔性も保てます。実際にも5段階か7段階が利用されていることが
  多いと思いますので、これから実施される場合は、5か7を前提に検討し
  てみることをお勧めします

大事なのは「トップボックス」を選ぶお客さま
 上記にある通り、満足度の程度の付け方では「満足」と「不満」を両端に配
置するタイプと、「とても満足」と「とても不満」を両端に配置するタイプが
ありますが、これはどちらがいいというものではありません。ただし、満足度
の把握は経年変化を見ることがポイントになりますので、一度決めたら継続す
ることが必要です。
 それよりも重要なのが「トップボックス」と呼ばれる選択肢の左端にある項
目を選んだ回答者の割合です。実際に行われているアンケートの分析を見ると、
例えば5段階評価だとトップボックスの「5満足」とセカンドボックスの「4
やや満足」を足して、「満足度は85%だからますますだね」となっていること
が多いのですが、最も大事なことは5のトップボックスを選ぶお客さまの割合
です。代理店にとって大事なのは、継続して取引してくれるお客さま、複数の
リスク対策を委ねてくれるお客さま(ファン)であり、さらには、口コミをし
てくれるお客さま、そして、新たなお客さまを紹介してくれるお客さま(アン
バサダー)です。本当に代理店の対応に満足してくれているお客さまは「トッ
プボックス」に存在しますので、ここに注目することがお客さまアンケートの
大きなポイントになることをお伝えしておきたいと思います。

以上

Hands-Onコンサルティング 
野元敏昭